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番の本質(和泉視点)(2)★
朔耶の寝顔をゆっくり眺めつつ、時折病棟から呼びだされたりしながらも、これから一週間を不在にできる量の仕事を片付けていたら日が暮れた。
朔耶はソファの上で毛布にくるまって、安心しきった表情で眠っている。まるで子供みたいに、無垢な顔だ。その頬を、手のひらで優しく包む。
朔耶が目が覚めれば発情期が始まる。
前回の発情期が明けてから、ことあるごとに考えてきた。
朔耶をこのタイミングで番にするか否か。
もちろん、朔耶を番としたい。しかしある点に考えが至ると、どうしても踏みとどまってしまう。
もし、彼が本当に子供が欲しいと思った時に、彼のそのチャンスを潰すことになるのではないか、ということだ。
番わずに、パートナーとして横を歩くこともできるのではないかと。
ただ、そうなると、朔耶は自分と共に居る限り、フェロモン抑制剤を飲み続けなければならない。番になればオメガのフェロモンは番のアルファにしか感知できなくなる。しかし、番にしないのであれば、それだけの負担を彼に強いることになるのだ。
それは自分の望むことではない。朔耶も番になることを望んでいる。
彼を番にするのか否かの主導権と決定権はアルファである自分にある。本能に任せるべきか。
任せてしまっていいのか……。
ソファに寝ていた朔耶が身じろぎをしたので、和泉もPCから顔を上げた。
「……ん……」
寝ぼけた声が聞こえてきた。
「起きたか?」
ソファの足元に腰掛けて、和泉が問いかける。朔耶は驚いて、飛び起きた。
「あれ?」
おそらく混乱しているのだろう。朔耶の手に指を添えて、落ち着けと窘める。先程診察室で感じた朔耶の香りはいったん落ち着いている。
「まだ緊急抑制薬が効いてるみたいだけど、早めに帰ろうか」
そう和泉が提案すると、朔耶は思い出したようで俯いて、小さく頷いた。
「すみません、ずいぶん寝ちゃったみたいで」
「大丈夫。夕べはろくに寝てないだろうし、今夜も寝かせてやれないと思うし」
さらりと言ったその意図を察した朔耶の顔が、ぶわっと赤くなった。
軽く食事を済ませ、和泉のマンションに着いたのはすでに八時を過ぎていた。そろそろ、抑制薬の効果も切れる。
前回の発情期はただひたすら肌を重ね合わせる互いを貪り合うようなものだったが、今回はもっと余裕を持ってこの二人だけの時間を楽しみたいと思う。
前回の発情期で、身体を清めることなくそのまま抱かれることに朔耶は抵抗感を見せていた。我慢できずに無理矢理抱いたのは自分だ。その反省もあって、抑制剤が効いている今のうちに、一緒に風呂に入ろうと提案すると、朔耶が嬉しそうな顔を見せた。
ふたりで服を脱がせ合い、浴室に入る。実は、もうかなり朔耶の抑制剤が切れてきていて、体中から爽やかな香りがしてくる。
「いい匂いがする」
身体を密着させ、シャワーで彼の身体を温めてやりながら呟く。朔耶が見上げてきたので、そのまま唇を奪った。
柔らかい唇が心地よい。シャワーヘッドをスタンドに置いて、彼の腰に手を回す。もう片方は胸の突起へ。彼の腰が少し揺らいだ。
「朔耶の香りは爽やかな柑橘……、ネロリに近いな。オレにはとても心地いい」
自分の香りに朔耶の香りが加わると、しっくり嵌まった気分になる。
シャワーの刺激ですこしつんと上を向いた可愛らしい乳首を、親指の腹でこするように押しつぶす。ふと、香りが増した。朔耶の腰がさらに揺れて、鼻から悩ましげな吐息が漏れる。
「……暁さんは……とてもいい香りがする。気品があって、侵してはならないような……」
「朔耶になら、いくらでも侵されてもいいぞ」
半ば本気でそう言うと、冗談だと思ったのか。朔耶が笑って、和泉を見た。
「僕は……暁さんに、侵されたい……」
和泉は朔耶の両脚の間に、自分の脚を挟み込む。そして、浴室の壁に朔耶を追い込んで太ももの内側を撫で上げながら、再び唇を奪った。
「なら、いくらでも……」
それが貪り合うようなキスの合図だった。
和泉が朔耶の口腔内に舌を差し込み、奥にたたずんでいた朔耶の舌と絡ませる。くちゃ、っという湿った音がして、それがまた性感を煽る。
和泉は朔耶を冷静に観察していた。
必死に朔耶は和泉の舌に己のものを絡ませ、腕を背中に回してきた。もっと深く重なりたい、そんな欲求が透けて見えてとても嬉しくなる。
和泉もまた、そんな朔耶の気持ちに応え、両脚の間に挟んだ足をぐいっと動かし、両脚を広げさせた。腰に回していた手を、そのまま下へ。双丘と脚の際を指で意味深に撫で上げる。
「んっ……」
形の良い眉が、快感に耐えるようにわずかに寄った。
シャワーの湯に当たりながら、朔耶の感覚は、しっかりと和泉の指を追っている。
その指は、すでに緩く勃ち上がる性器の周りをまさぐる。下生えの上から、その近くを悩ましげに指でなぞる。朔耶は無意識に腰を揺らし、性器はますます上を向いた。中途半端な刺激がじれったいようで、その先を求めるように、朔耶の舌が大胆に入ってきた。
朔耶の匂いが浴室内に沸きたつ。朔耶の舌に応えながら、和泉は徐々に朔耶に引きずられつつあることを自覚してい
た。和泉の中心部にもまた熱が集まり始めているからだ。
朔耶をゆるく攻める指が、そのつつましい性器を優しく摘まむ。
「あ……ん」
優しい刺激に朔耶が声を上げる。
「首に腕を回せ」
和泉の言葉に、もう完全に抑制薬が切れたのであろう朔耶はとろんとした目を向けて、両腕を首に絡ませる。
朔耶の体重を支える必要がなくなった和泉の両手は、左手は朔耶の性器を緩く刺激を与え、利き手はその奥の場所をゆるゆると刺激し始めた。
「……気持ちい…い…」
朔耶はもう自分の快感を追うことに夢中になっている。和泉もそんな無防備な朔耶が可愛らしくて、その場所をますます攻め立てる。利き手の指は、朔耶のその場所を少しずつ、なぞっては少し入り口に指を引っかける。
「立っていられるか?」
そう耳元で問うと、小さく、無理……と聞こえてきたから、そのまま洗い場の床に四つん這いにさせ、その上から覆い被さった。この方が攻め立てやすい。
その体勢で何をされるのか、まともに働かなくなった頭でも分かるのだろう。朔耶が腰を振った。早く欲しいとでも言っているように。
和泉の右手の中指が朔耶のなかに入り込む。その刺激で、朔耶の腰が揺れる。第一関節まで入れて、少し広げるようにかき回す。シャワーの音のなかに、くちゃくちゃと、いやらしい音が立った。中は潤んでいて、朔耶は腰をうごかしながら、自分の快感を追い、そして和泉のもの受け入れられるように、と必死だ。
そんな反応を見て、和泉は指をもっと奥に、くっと入れ込む。
「はあ……ん」
背中がしなった。
発情症状が理性を凌駕しているようで、痛みはあまり感じていないようだ。となると、和泉の指も大胆になる。
中を大きく、ぐるんと撫で上げると、もう一本、増やした。
「あ……っん!」
それが痛みではなく、快感から出る悲鳴だと分かっている。和泉の左手が弄んでいた性器は、未だ硬く高く反り返っている。少しの刺激ではじけてしまいそうだった
無意識なのだろう、上下で腰を振る朔耶が、和泉を朦朧とした瞳で見つめる。
「あき…らぁ…、欲しい」
可愛らしいおねだりに、和泉の我慢も限界に近い。しかし、和泉は朔耶の腰を持って抱き起こし、その首筋にキスをした。
「それは、ベッドに行ってからだ」
和泉は朔耶を抱きかかえ、浴室を後にする。自分はバスローブを纏い、朔耶の身体をバスタオルで優しく拭いてやる。そのまま抱きかかえようとしたら、朔耶が自分だけ何も纏わないのは心許ないと訴えるので、新しいバスタオルをそのまま身体に巻き付け抱き上げた。
「心配しなくても、ベッドの上ですぐに裸だぞ」
しかし朔耶は何も言わずに和泉の首にかじりついた。
予告通り、ベッドの上に運ばれて、ものの数秒で互いに全裸となる。朔耶を仰向けに寝かせ、腰に枕を当てがい、両膝頭を掴んで脚を大きく開かせる。彼のデリケートな部分がしっかり空気に触れ、そして和泉の目にすべて晒される。
「あ……あん」
その声は腰の奥の場所にドクンと響く。性感が煽られていることを隠しもせず、小さく声を上げる朔耶が愛おしくて堪らない。
もしかしたら、ゴクリと喉が鳴ったかも知れない。
そのまま、和泉の性器を挿入しようと思ったが気が変わる。もっと朔耶を愛してやりたい。
きっと自分も朔耶のフェロモンに引きずられているのであろうと思う。和泉は、欲望の赴くまま、朔耶の屹立した性器を、まるごとぱくりと口に含んだ。
「やあっ……あん!」
貫かれる期待と快感でうずいていた朔耶の身体が、びくりと痙攣する。甘い声が上がった。
亀頭を唇と舌で刺激をすると、朔耶の嬌声とともに先走りがにじみ出る。和泉はそれをゆっくり楽しんだ。翻弄され乱され、なのに素直に反応を見せる朔耶が、可愛すぎて、食べてしまいたいくらいだ。
口に含んだ性器はぱつんと今にも弾けそう。
「あ……もぅ……だめ」
朔耶が息も絶え絶えに訴える。しかし、和泉は朔耶の性器から少し口を外し、うつろな目で訴える朔耶を見上げる。
「いいから、まずはイけ」
そして再び咥える。その衝撃に耐えるためか朔耶の手が何かを求めてシーツの上を這う。和泉はそれを掴むと、指を絡ませて握り込んだ。
舌を根元の裏の筋から上に向かって撫で上げる。そして亀頭を口に含み柔らかく刺激を咥える。
「はぁ……。んっあ……ん!」
朔耶の身体が跳ね、声を上げる。口に含んだ性器から、どくどくっと濃厚な白濁が絞り取られる。それを和泉は大切に飲み干した。
和泉は身体を起こし、朔耶の唇にキスを落とす。
「朔耶、分かるか。そろそろ入れるぞ」
和泉の宣言に、朔耶は少し息を吹き返す。
そして、その場所をぐいっと押し当てる。和泉の性器の先端が、朔耶のその場所にわずかに飲み込まれる。朔耶の蕾は、和泉自身をまったく拒まず柔らかく迎えているようだ。そんな行為さえも愛おしくなってくる。
「あ…ん。きて」
その柔らかく和泉を待ちわびるその場所に、和泉のものを当てがう。
「はぁ……あ」
少し身体がびくんと反応している。朔耶は、和泉自身の一挙一動に過敏な程に反応を返してくる。それが愛おしい。
和泉は、オメガ特有の分泌液でぬらぬらと色気を放つその場所に己の欲望を、ずぶずぶと慎重に沈めていく。朔耶の爽やかな香りに包まれて、恍惚とした気分になる。ともしたら、すぐに腰を振ってしまいそうだけど、それを懸命に押さえ込んだ。
「朔耶の中……気持ちいい。堪らないよ……」
朔耶の肌と和泉の下生えがみっちり接着し、奥の奥まで到達したことを自覚する。和泉を包み込む朔耶は、まるで彼の優しさのように、堪らない快感と安堵感をもたらす。
そんな和泉を、朔耶は両腕をかざして求めてくる。それに応え、身体を伸ばして、彼の腕を受け入れる。求められるままにキスに応じ、唾液と舌を、くちゃくちゃと絡ませる。たまらず、和泉は朔耶の奥を突き上げるように、少し引いては挿し込むといった動きを始めた。
「……あき……らさ……ん」
その動きに呼応して、切ない声で朔耶が和泉を求める。優しく、和泉は応じる。
「僕は……いくらでも待つから……」
朔耶はそう言った。
和泉の腰使いが止まる。
「……貴方と、人生を共にする覚悟はできています」
「朔耶……」
「だから……好きにして」
完全に信頼し、すべてを和泉に委ねるような朔耶の言葉に、胸を掴まれた。
もうすでに、朔耶は決めているのだ。
自分と人生を全うするということに。
もし、朔耶が子供が欲しいと、他のアルファと番いたいと言ってきたら。
間違いなく、自分は嫉妬に狂うだろう。
朔耶は手放せない。他人になど渡しはしない!
和泉は朔耶の中を大きく突き上げる。
「あ……はぁあん!」
朔耶の嬌声が響いた。
和泉の目の前には、淫らな光景が広がっている。
先程、和泉の舌技によって絶頂を迎えた朔耶の性器は、ふたたび屹立していた。腰使いによって、ゆらゆらと揺すぶられている朔耶の性器。さらに先走りの液が肌の上に落ち、小さな水たまりを作っていた。
なんて淫らで濃密で、官能的なのだろう。
和泉は恍惚とした。
簡単な事実だ。なぜ悩んでいたのか。こんなに身も心も無防備に自分に預け、意識を飛ばすほどに乱れてくれる愛おしい存在を、手放せるなど考えたのか。
もう朔耶と出会って、彼以外にはあり得ないと本能が叫んでいるのに。
和泉は、トロトロにとろけている朔耶の場所から一気に己を抜き去る。
「あ……ん」
その刺激に朔耶が喘いだ。
朔耶の腕を取り、彼を俯せにして膝を突かせ、四つん這いの姿勢にさせる。そして、脚を開かせる。
無防備なその姿勢で再び、少し赤みを帯びた蕾が露わになった。
そこに和泉の屹立を打ち立てる。迷いはない。ぐっと入り込んだ。朔耶の綺麗な背中が、衝撃と快感で弓なりにしなった。
「あああ……っ!」
すべて奥まで入り込んだことを確認すると、今度はそれを引いて、再び突き立てる。
「ああーーっ!」
朔耶の悲鳴にも似た喘ぎが、口から漏れ出る。
和泉は朔耶の腰を掴んだまま、貪るように荒い腰使いで、朔耶を追い立て始める。
「っは……あん」
和泉は同時に朔耶の硬くそり立つ性器に手を伸ばし、ゆるゆると刺激を加え始める。
「あ……ああ」
身体が震え、言葉にならない声が、朔耶の口から漏れる。
そんな乱れた姿をあられもなく見せてられて、興奮しないはずがない。自分しか見せてくれないその表情を、今見られることが嬉しい。
その言葉にならない喘ぎも、健気な言葉も、アルファの性を搾り取るような情熱も、なにもかもが尊く、大切にしたい。
和泉は腰使いを早める。
「はっ……あ、はっ……」
朔耶は、必死に追いつこうと、応えようとする。自身も腰を揺らし、己の快感を貪ることに夢中だ。朔耶の腰使いと和泉のストロークが噛み合って、絶妙な快感を生み出す。
和泉がひときわ高く突き上げる。
「ふぅ……ん…朔耶」
切ない吐息と共に朔耶の名を呼ぶ。
「はあ……ぁぁん!」
大きくはち切れそうな朔耶の性器から、とろんとしたミルクのような白濁があふれ出た。
その放出の快感が中に伝わり、搾り取られるように朔耶っもなかで、和泉も果てる。
アルファの射精は長い。その白濁がたっぷりと朔耶の胎内に注ぎ込んだ。
しばらくその体勢のままだったが、その後、和泉が朔耶を抱きかかえ、体勢を変える。
「朔耶……」
和泉が朔耶の背中を抱く。熱い声で、耳元でその名を呼んだ。
「…ん……」
気持ちは固まっていた。
「オレと……番ってくれ」
朔耶は少し驚いた様子だった。
そして小さく頷き、はい、と答えた。
涙がにじんだその言葉を確認して、朔耶の項に歯を立てる。そしてぐっと、噛み付いた。
「あ……んっ」
中切歯が朔耶の皮膚を破り、彼の内部に入る。痛みを感じているはずなのに、朔耶は恍惚した声を上げた。血の味がする。それが番である朔耶の一部だと思うと、溜まらなく愛おしい。
項から口を離し、その場所を舐め上げる。その場所には、咬み後がしっかりと付いていた。
和泉がずりと朔耶の中から這い出て、彼の身体を返して抱き寄せる。
「……一生、いや互いの命が朽ちるまで……、オレたちは番だ」
覚悟を決めた和泉の言葉に、朔耶が爽やかに応える。
「望むところです……。僕は今、本当に泣きたいくらいに幸せです」
本当にこいつは……と思う。
なんて強いんだろう。
和泉は、朔耶の唇に、自分のものを優しく重ね合わせた。
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