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第4話 弟子
子供の頃から絵が好きだった。
父の正妻には男の子が一人しかいなかったから、万が一の時のために私も学問所や道場に通わされて侍になるために学んでいたが、本当は絵師か、そうでなければ何か絵に関わるような仕事に就きたかった。
暇さえあれば絵を描いていたが、やがてそれだけでは満足できなくなって、近所にある浮世絵の版元に出入りするようになった。
幸いなことに店の人たちにはかわいがってもらえたので、子供でもできる簡単な仕事を手伝わせてもらったりしながら、たくさんの絵を見せてもらうことができた。
そんな数々の絵の中で、いつもひときわ私の目を引いたのは、一人の絵師が描いた絵だった。
役者絵や美人画を得意とするその絵師の絵は、どれも生き生きとしていて、今にもそこに描かれた人物が動き出しそうだった。
いつしか私はこの人が描くような絵を描きたいと願うようになり、拙 いながらも彼の描いた絵を写したり、その書き方を想像して真似るようになっていた。
私が十五になった頃、父の正妻に二人目の男の子が生まれたので、父からもう学問所や道場に通わなくてもよい、好きに生きよと言い渡された。
大喜びで版元に行き、店の若旦那にあの絵師に弟子入りできないかと相談すると、若旦那はすぐにその絵師に話を通してくれた。
「いいかい。
あいつは人見知りでへそ曲りだから、あいつに会っても感激して褒めちぎったりしてはいけないよ。
清十郎なら、ちょっと反抗的に振る舞うくらいで丁度いい」
「はい、わかりました」
若旦那に教えられた通り、その絵師の問いかけに少しばかり反抗的に答えを返すと、その内容が内容だったせいか、絵師はちょっと申し訳なさそうな顔になって、それから何ごともなかったような顔をして私を弟子にしてくれた。
そっけないけれど優しいお師匠様のことを、私はいっぺんに好きになった。
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浮世絵師の弟子としての生活は、毎日が充実していた。
お師匠様が絵を描くところを間近で見られることはもちろん、お師匠様が絵を描くための準備や後片付け、それに家事をすることでお師匠様のお役に立てるのはうれしかった。
それにお師匠様は私に惜しげもなく絵の描き方を教えてくれて、そのおかげで絵を描くことももっと楽しくなった。
なるかならないかもわからないのに侍になるために学んでいた時よりも、お師匠様のために、そして自分のために何かができる今の方がずっと幸せだ。
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