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第5話 弟子

そんなふうに毎日を過ごしていた、ある夜のことだ。 お師匠様が晩酌をしている時に、話の流れでお師匠様の筆遣いに惚れているのだと言うと、お師匠様は照れたような顔になり、それから戯れのように私の手首の内側に筆の先で円を描いて見せた。 ──その時の衝撃を、なんと言えばよいのだろうか。 思わず声をあげずにはいられないような、ぞくっとする感触もさることながら、その感触に声をあげた私を見るお師匠様の目を見た、その時の衝撃を。 ──あれは、父が母を(ねや)へと連れて行く時に見せるのと、同じ目。 男が女を求めるその時と同じ目で、お師匠様が私を見つめている。 それを知った私が感じたのは、嫌悪でも恐怖でもなく、歓喜であった。 どうして、と自らの心の動きに戸惑う間も無く、お師匠様が私の手を引いて自らの膝の上に抱き込み、私の首筋やら耳やらを筆でなぞり始めた。 その筆の感触やら、お師匠様の膝や腹の感触に訳がわからなくなって、私は戸惑いつつも、おかしな声をあげ続ける。 「清。  着物を脱げ。  俺の筆遣い、お前の体に全部覚え込ませてやる」 やがて、お師匠様にそう言われた私は、素直に着物を脱いでふんどし一つになってお師匠様の前に座った。 お師匠様は神妙な顔でうなずくと、立ち上がって新しい筆と水の入った器を取ってきた。 お師匠様は筆にたっぷりと水を含ませると、その筆で私の腹に触れた。 「んっ!」 その冷たさとくすぐったさに思わず声をあげたが、お師匠様は構わずに私の腹に水で絵を描いていく。 確かに絵を描いているというのはわかる。 けれどもそれが何の絵かを考えるほどの余裕はない。 それよりも腹を()う筆の感触に耐えながら身動きしないようにするだけで精一杯だ。 お師匠様は、いつも絵を描いている時と同じように真剣な表情をしている。 けれどもその真剣さの中に、確かに欲情の色が混じっている。 そして、そのことに気付いた私もまた、欲情の熱に体が満たされていく。 「あっ」 ふいにお師匠様の筆が乳首をかすめ、私はたまらず声をあげる。 その途端、お師匠様の喉がごくりとなった。 お師匠様の筆が、腹から乳首へと動いた。 胸のささやかな尖りをくるくるとなぞっていく筆は、もう絵など描いてはいない。 それなのにお師匠様の顔はさっき以上に真剣で、目はぎらぎらとした輝きを放っている。 私はもう、声を抑えることなど出来ず、その上ふんどしの中のモノまで反応してきてしまった。 そのうちに、私のふんどしの中の状態に気付いたお師匠様が、私のふんどしをほどいた。 「お前の筆も、もう使えそうだな」 ぼそりとお師匠様にそう言われ、私の顔は真っ赤になる。 お師匠様は手に持った筆の先を、私の筆の根元に押し当てた。 「あっ……やぁっ…あ、あ……」 そのまま裏筋をなぞるように筆を動かされ、先のふくらんだところを螺旋を描くようにぐるぐるとなぞられ、私ははしたない声をあげ続ける。 「……ああっ!」 ついには先っぽの穴に筆先を埋め込まれ、私はひときわ高い声をあげてしまった。 お師匠様はそのまま埋め込んだ筆先を動かし始め、敏感なところをひっきりなしに刺激された私は息も絶え絶えになる。 「幾らでもあふれてきやがるから、筆を濡らさなくてもすむな」 そうお師匠様に言われ、私は恥ずかしさのあまりに両手で顔をおおってしまう。 するとお師匠様は、私の筆の穴から絵筆を抜いてしまった。 お師匠様が筆を置いて立ち上がった気配がしたので、手を外してそちらを見ると、なんとお師匠様は着物の前をまくって、ふんどしをといているところだった。 その股ぐらで勃ちあがった、たいそう太い筆を見れば、さすがにお師匠様が何をするつもりかは察しがついた。 その時、ふいに私の頭に浮かんだのは、以前母が私に教え聞かせてくれたことだった。 『お前は器量がいいんだから、自分を安売りしちゃいけないよ。  ここぞという時、これという相手に、出来るだけ高く売りつけてやりな』 それを聞かされた時は、男の自分に何を教えるのだと呆れたものだった。 けれどもまさに今、母のその教えが役に立つ時だと、直感的にそう思う。 「お師匠様、待ってください。  そのお筆を使われる前に、私におっしゃることがあるのではありませんか」 そう言うと私は、ぽかんとした顔になったお師匠様が、私を、私が望むだけの高い(あたい)で買い上げてくれるのを待った。

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