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第6話 師匠

筆遣いを教えるなんて、言い訳もいいところだ。 それはわかっていたが、俺は自分を止めることができなかった。 水で濡らした筆でその体に絵を描くと──いや、取り繕うのはやめよう──筆でその体をなぶると、清は必死に耐えながらも身を震わせ艶っぽい声をあげた。 きつそうなふんどしをほどき、そのほっそりとした美しい形をした筆を絵筆でなぶっているうちに、俺はとうとう我慢が出来なくなった。 欲望のままに、着物の前をまくってふんどしをとき、自分の筆を取り出してそれで清の中をなぶってやろうとしたその時、ふいに清が澄んだ目で俺を見上げてこう言った。 「お師匠様、待ってください。  そのお筆を使われる前に、私におっしゃることがあるのではありませんか」 欲でいっぱいになった俺の頭では清の言葉がすぐには理解できなくてぽかんとしてしまったが、少し考えると清の言いたいことはすぐにわかった。 確かに、清の言う通りだ。 欲望に流される前に、俺は清に言わなければいけないことがある。 「清。  俺はお前に惚れたんだ。  お前のことが全部、欲しくてたまらない。  だから俺のこの筆、お前の中に入れさせてはくれないか」 考えてみれば、ごく単純なことだったのだ。 俺は清のことを、いつの間にか単なる弟子としてではなく、一人の男として好きになっていた。 だからこそ今日、ふとしたきっかけからこんなふうに欲望が暴走したのだ。 そしておそらく、そんな私に全く逆らおうとしなかった清もまた……。 「はい、お師匠様。  私も、お師匠様に惚れています。  ですからどうぞ、お師匠様のそのお筆を、私の中に収めてください」 そう答えた清は、本当にうれしそうな笑顔になっていた。

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