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Ⅲ 罪と罰④
縄が解かれたのは、突然だった。
総理って、ヤる事ヤったら冷たくなるタイプ?
……って、最後までヤってないけど。
「君はこの部屋から出なさい。だが外には出るな。屋敷のどこでもいい。隠れてろ」
どういう事?
理由はすぐ知れた。
キィィン
バリン、バリン、バリンッ
ガラスが割れる。
鼓膜が痛い。
音波の共振を利用した特殊兵器か?
(三半規管がっ)
耳をやられた。平衡感覚が麻痺する。
(プロの刺客か)
総理の命を狙う刺客の仕業だ。
(クソっ、こんな時に)
体が動かない。
俺は総理のボディーガードなのに。
「指示が遅れた。すまない」
抱き起こした俺の体を、倒れた本棚の影に横たえた。
辛うじて、音波が発生する寸前に耳を塞いだのだろう。
総理が歩ける事にほっとしたが。
(俺は役立たずだ)
「何があっても、ここを動くな」
「しかしっ」
「これは命令だ!」
君は、諸外国に侵略されず、なぜ日本が維新を成し遂げたか分かるか?
「生き抜く誓いがあったからだ」
仲間 が斃れても、自分が生き残る事で日本が生きる。
何があろうとも生き抜く覚悟。
覚悟の内に友の想いを生かすのだ。
ゆえに日本は生きた。
諸外国には斃されぬ。
友と共に生きる覚悟の火は
消えぬ
折れぬ
朽ちぬ
「逃げて生きるのは、恥ではない」
だから君は生きてくれ。
若者を未来に送るのは、大人の役目だ。
「君が生きて、日本を生かせ」
それが私を、後の世に生かす想いとなる。
「総理はッ」
「案ずるな」
私は
維新を生き抜いた漢
「犬養毅だァァァーッ!」
縄が宙を舞った。
窓から次々に投げ込まれる黒い物体。
手榴弾だ。
俺を縛っていた縄を手に取り、縄が手榴弾を弾く。
手榴弾が窓の外で爆発する。
全弾撃滅
凄い。
これが維新の火をかいくぐった漢の実力
「まだだ」
戦闘は終わらない。
作戦が失敗した場合を想定し、次の一手を用意するのがプロの刺客だ。
風が吹いた。
巨大な渦だ。
爆風に乗って、黒ずくめの装束が窓辺に降り立つ。
右手に構える拳銃
「総理ッ」
彼は動かない。
なぜ?
撃たれてしまう。
総理は動かないんじゃない。
動けないんだ。
動けば、銃弾は背後……
俺に当たるから
カチリ
撃鉄が下がる。
「総理!」
トリガーが引かれる。
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