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Ⅲ 罪と罰⑥
………………ツゥゥン
俺は死ぬ
銃弾に斃れて
体温は失われ、冷たくなって……
………………あれ?
気持ちいい
死ぬのって気持ちいい………わけない!
パッと瞼を開けると、秀麗な顔が飛び込んだ。
(総理………)
俺、まだ生きてる。
口内を蹂躙する舌に夢中になって、アァ気持ちいいよぅ。
「やっぱり俺、生きてる」
唇が離れても、透明な唾液がつうっと名残惜しく糸を引く。
「私が安物の首輪を贈るとでも思ったかい」
そう言えば。
首に何か当たった衝撃があったけど。
指で辿ると、首輪の金属がへこんでいる。
まさか!
弾かれた銃弾
拳銃を落とした刺客が、左手を押さえてうずくまる。
(弾の弾かれる角度を計算して、総理はキスを?)
この人ならできる!
だって、維新を生きた漢なのだから。
「君は優秀な秘書兼ボディーガードだ」
拾ったのは、訓練で使った俺の拳銃だ。
「実弾の装填は正解だ」
ヴァンッ
火花を噴いた銃弾は、天井までそびえる本棚に当たり、辛うじて保たれていた均衡を崩した。
先刻の爆発で脆くなっていた床が崩壊する。
「命は尊い」
生き様を刻む連綿たる命の絆こそが歴史であり、歴史を守るのは国家の誇りだ。
維新の志士よ
想いを託し、生き抜く命のため
「私は生きる」
刺客を飲み込んで床が落下した。
階下では駆けつけた警官に、暴漢たちが逮捕されている。
「がんばったな」
大きな手がポンっと俺の頭に下りた。
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