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【ぼくの大好きなお兄ちゃん】あおい 千隼

 学校から帰ってくると兄ちゃんが遊んでくれる。  だけど絶対に誰にも話してはいけない秘密の遊びなんだって、兄ちゃんには口止めされてるからお口にチャックだ。父さんにも母さんにも話してない。もちろん友達にだって内緒だ。だって─── 「おかえり、(いく)。今日も兄ちゃんと遊ぼうな」 「うん、兄ちゃん」  ぼくと兄ちゃんだけの特別な遊びだから──────  1  ぼくの兄ちゃんはすごく格好いい。通っている高校の女子だけじゃなく、他校の女子にも兄ちゃんのファンがいるって聞いた。だけど兄ちゃんのモテっぷりは女子だけでなく、男子にも隠れファンがいるっていうじゃないか。  けどいくら兄ちゃんがモテようが、どれだけアリんこみたいに集ろうとそんなの関係ない。兄ちゃんにとっての一番はいつもぼくってこと、そこが重要な問題であって他のやつなんて目じゃない。  要するに兄ちゃんはぼくが大好きで、ぼくも兄ちゃんが大好きってことだ。そういうのを”ソウシソウアイ(相思相愛)”っていうんだって兄ちゃんが教えてくれた。けどソウシソウアイっていったいなんだ?  兄ちゃんは色んなことをぼくに教えてくれる。たとえば銀河系には二千億個の星が存在することや、うぐいすが鳴くと平安京になるってことも教えてくれた。それに学校では習わないことも教えてくれる。  そのうち保健の先生が特別な授業をしてくれると兄ちゃんは言っていた。けど兄ちゃんのいう”特別な授業”とは、きっと性教育のことだと思う。だから「もうぼく授業受けたよ」と兄ちゃんに話したら、そんなもの特別でもなんでもないって。 「子供だましみたいなものだ」なんていうものだから、ぼく腹が立っちゃってこう言ったんだ「だったら大人の特別授業ってなんなのさ」と。すると兄ちゃんは「もう少し大きくなったら教えてやる」だって。  きっと兄ちゃんはぼくを馬鹿にしているに違いない。そりゃあぼくはまだ十歳で身長だって高くない。正直に告白すると、朝礼では前から三番目だ。それにくらべ兄ちゃんは身長が高くて、高校に通っていて歳は十八歳。  歳や身長では絶対に兄ちゃんには敵わない、でもだからといってぼくは子供じゃないやい。  そこで兄ちゃんに言ってみた、ぼくに隠し事するなんて卑怯だぞと。いつだってぼくらは秘密をシェアしてきた。どれだけ些細なことも隠さず楽しみを分け合う仲だ、ただ子供という理由だけで教えてもらえないなどフェアじゃない。  すると兄ちゃんは「一度知ってしまえば後戻りできないぞ。怖くて泣いてもしらねえからな」とぼくを脅す。そんな手に引っかかるものか、上等だ受けてたってやる。悔しさもあり勢いで言ってしまった「怖くないやい」と。  ぼくが堂々と宣言したのに、兄ちゃんは信用してないのか半笑いでこう言う、「ほんとうに怖くねえと思うなら、つぎの日曜に俺の部屋に来い」と。やった、おとなの話が聞けるぞ。嬉しくて思わず兄ちゃんに抱きついた。  そのときは分からなかったけど、今から思うと兄ちゃんの股間は膨らんでいた。ぼくの腹に当たるのが兄ちゃんのフル勃起チンコだなんて、そんなこと考えてもみないよふつう。いいとこベルトのバックルぐらいに思ったさ。  でも違った。兄ちゃんはぼくに興奮しておっ勃てていたってこと、これから教えてもらうおとなの特別授業で嫌と知ることになる。ひとつ訂正しておくと、決して兄ちゃんは変態なんかじゃない。ただぼくのことが好きなのさ。  それにぼくだって兄ちゃんが大好きだ、好きな相手にチンコを勃たせたって悪くはない。気持ちが目に見えて表れるのは男がデリケートだからだ、それが分かってぼくはすごく嬉しかった。  だからいくら兄ちゃんに声をかけたって無駄ってこと。兄ちゃんが宇宙一好きなのはぼくだけだ、どんな美人やイケメンが言い寄っても兄ちゃんを落とすことなどできやしない。兄ちゃんをひとり占めできるのはぼくだけだ。  2  今日はまちに待った日曜日。  どうしてか父さんや母さんがいては教えられないと言われ、ふたりが仲良く買い物デートに出かけるのを昼まで待つ。これでは蛇の生殺しだと思いながらも、ぼくは利口にも兄ちゃんの言葉に従うことにする。  ぼくと兄ちゃんの部屋は二階だ、手っ取り早く耳もとで話してくれたら一階にいる父さんたちには聞こえないのにな──そんな疑問が浮かびはしたけど、極力考えないよう学習デスクで宿題をして過ごした。  そしてやっと昼をむかえた。父さんと母さんは日曜になると買い物に出かけ、外で昼ごはんを食べて夕方に帰ってくる。だからいつもキッチンのテーブルには、ぼくらの昼ごはん用に二千円札が置かれている。  それでバーガーショップに行ったりファミレスに行ったり、コンビニで買い食いすることもあるしスーパーで材料を買って兄ちゃんが昼ごはんを作ってくれる日もある。  ここだけの話、兄ちゃんは料理がうまい。そんなことがもし学校の女子に知られでもしたら、きっと家まで押しかけてくるぞ。料理男子がモテることぐらい小学生のぼくだって知っている、だからなんとしても隠してもらわなきゃ。  今日はデリバリーのピザを注文すると言っていたから安心だけど、スーパーに買い物に出かけるのときは注意が必要だ。誰かに見られてしまえばぼくがその子にこう言うつもり、「母さんに言われておつかいに来た」ってね。  壁の時計を見ればちょうど十二時。一階からぼくらを呼ぶ母さんの声がして、デスクから立ち上がると部屋を飛び出す。 「いってらっしゃい」  階段を下り玄関に向かうと、靴を履く母さんに挨拶をする。 「いってらっしゃい。あとのことは俺に任せて親父と楽しんできな」  手を振るぼくのうしろに立つと、兄ちゃんも母さんに挨拶を言う。すでに父さんは外に出て、ガレージから車をだして道路で待っている。母さんは兄ちゃんに「よろしくね」というと、「いい子にしてるのよ」とぼくの頭を撫でて出ていった。 「っと、じゃあ俺たちも昼飯にしよーぜ。郁、おまえピザのトッピング何がいい。前回ンときみてーに、もうパイナップルはよせよ。俺はやっぱペパロニと、それからソーセージも──」 「兄ちゃん、はやく教えてよ。ぼくもう待ったよ、これ以上は待てない」  まるで無かったことみたいにスルーしてキッチンに向かう兄ちゃんの腕を掴むと、「はやく特別な授業をしてよ」とねだる。  すると兄ちゃんは「まあ待てって。ンな急がなくたって時間はあんだろ。先に腹ごしらえだ」と待ったをかけ、それからぼくを持ち上げると肩に担いでしまう。 「うわあっ、急にしたらびっくりするだろ」 「ったく郁はビビリだな。だからいつまでたってもチンコの玉が小せんだよ」 「なっ!──小さくなんてないやいっ、兄ちゃんのがデカいだけだろ。いなり寿司みたいにデロンと垂れ下がってさ、ぼくのは友達と同じくらいのサイズだもん」  兄ちゃんは優しいけど、いつもひと言多いからたまに喧嘩になる。けど適当にあしらわれてお終いだ、いつだって言葉でぼくは兄ちゃんに敵わない……力でも敵わないけど。  肩に担がれ兄ちゃんのおちりを見下ろしながら口を尖らす。もう兄ちゃんなんて知らないとへそを曲げていれば、どうしたのか急に低くて少し怖い声でぼくに話しかけてきた。 「……おまえ、ダチと見せ合ってんのか」 「? なんのこと?」 「さっき言ったろ、ダチに金玉見せたって」 「言ってないよ──……あれ、言ったかな。けど違うよ。わざと見せたんじゃなくて、トイレでおしっこしてるときやプールの着替えで見えちゃったりとか、そんな感じだよ」  実際には着替え中に友達とふざけ合ったことがある。玉袋の長さを競ったりチンコの長さを比べてみたり、がっつり見せ合ったというのが正解だ。けど今の兄ちゃんは怒っていて、言ってはいけないような気がして嘘をついてしまう。  ごめんね兄ちゃん嘘をついてと心で謝っていると、小さくため息をついたあと兄ちゃんが言う。 「いいか郁、もうぜってえ誰にも見せんな。着替えンときは腰にバスタオルを巻け、ションベンするときは便器にチンコつっ込んでしろ、いいな。兄ちゃんの言いつけ守らなかったら、もう一緒にゲームして遊んでやらねえぞ」 「やややだよ、そんな……わ、わかった約束する。絶対に見せないから、今日もお風呂あがったらピヨピヨカートで遊ぼう、ね? お願い」 「ふはっ、わーったよ。じゃあ約束だぞ、男と男の約束だ。破ったらチンコが腐って女になるからな」 「腐っ!? そんなの嘘だ──嘘だよね……?」 「うははっ、さあな」 「どっちだよ──っ!」  それが嘘だってことを知るのは、ぼくが中学三年生になってからだ。女になっては困るので、ぼくが死ぬ気で約束を守ったのは言うまでもない。  兄ちゃんはうはうはと笑いながら、ぼくを肩に担いだままキッチンに向かうのだった。  3  ピザが届き楽しい昼ごはんを済ませると、ぼくらは二階にあがって目的を果たしに向かう。行き先は兄ちゃんの部屋、内容は”おとなの階段をのぼるための特別授業”だ。けどおとなの階段てどんな階段だ?  まあそれはいいとして、ぼくらは部屋に入ると兄ちゃんのベッドに座る。いつ来ても兄ちゃんの部屋は宝の山だって思う。めちゃ格好いいフィギュアが棚に並んでいて、本棚には人気のピヨピヨコミックが順番通りにそろっている。  それからベッド横の壁には水着の女がポーズを取ったポスターが貼られていて、今はその子ったらぼくの背中を見ている。と勝手に思っているだけだけど、やたら視線が背中に突き刺さるような気がして堪らない。  水着から溢れそうなオッパイが、ぼくには邪魔じゃないのかなと思ってしまう。けど兄ちゃんは「巨乳は男のロマンだろ」なんて熱く語っていた。そうかな、ぼくはべつに小っこくてもいいや。  なにやら兄ちゃんがクローゼットに顔をつっ込んでゴソゴソと、さっきから家探しみたいなことをしている。いったい何をしているのか気になって「なにしてるの?」と訊いてみたら、「まだ秘密。ちと待ってろ」とお預けを食らう。  はやくして欲しいな、でないと背中の視線が気になってしようがない。気を紛らわすため部屋を見まわしていれば、「おう、待たせたな」とぼくのまえに立つ。やっとか、とひと安心したもの、兄ちゃんの手には妙なものが─── 「兄ちゃん、それなに?」 「これか、これは特別授業で必要な特別(・・)な玩具だ」 「?」  特別なオモチャ。いったいどうやって使うのだろうか。兄ちゃんが手にするオモチャはふたつ、ひとつは透明なボトルに入った液体のようなもの、それからもうひとつは黒くて長い箱。なかに何が入っているのか気になって仕方ない。  黒い箱に興味津々だ。ぼくの視線が箱に向かっていたのに気づいたのか、兄ちゃんはにやりと笑ってひと言「中身が知りたいか」とぼくに訊く。当然ぼくは「うん」と答えると、今度は満面の笑みで兄ちゃんは「そうか」とうなずく。  ふたつのオモチャをベッドに置くと、ぼくのとなりに兄ちゃんも座り授業開始だ。 「じゃあ早速これ開けてみような」 「うん」  どきどき、わくわく。誕生日のプレゼントを見るような感じというか、とにかく中身を知るのが嬉しくて知らず身体がリズムを刻む。ぼくの様子に兄ちゃんは「ふはっ、踊ってんじゃねえよ」と笑いながら、いい子いい子と頭を撫でる。 「えへへ、だって楽しみなんだもん。なにが出てくるかな──……なにそれ」  箱の中身に目が釘つけとなる。兄ちゃんが箱から引きずり出したモノ(・・)、肌色で少し赤黒くてかさが張っていて、長くて太くて玉袋まであって……。どの角度から見てもアレにしか見えない、アレだよアレ。チンコ、男のチンコ。  どうして箱からチンコがでてくるのか分からなくて、けど怖いくらいリアルなチンコに目が離せない。黒い箱から赤黒いチンコが出てくるなんて、どんなシャレだよとひとり心のなかでつっ込んでみる。  まさか本物──そこまで考えたところで兄ちゃんがぼくを呼ぶ。 「──おい、郁っ! おいったら、聞いてんのか。おまえ目え開けたまま寝てんのか?」 「あっ──ごめん、ちょっとびっくりしちゃって。だってまさか箱からチンコが出てくるとは思わないから、勇者・郁は電波の国に旅立っていた的な感じ? っていうか、その……」 「はあ? おまえ何言ってんの」  ぼくも何を言っているのか分からない。頭に浮かんだことをただ口にしただけ。たぶんぼくは、こんらん魔法にかかっていたに違いない。敵は兄ちゃんが持つチンコモンスター、ぼくにとっての強敵だ。 「いいぞ、どこからでもかかってこいっ! ぼくがやっつけて──痛っ」 「ばーか。やっつけてどうすんだ、特別な玩具つったろ」  ぼくが決めゼリフを言い終えないうちに、兄ちゃんがぼくの頭を叩いて話を止めてしまう。それにしてもチンコが特別って、それってどういう意味なのさ。まったく話が見えずにまた魔法にかかってしまいそうだ。  しかも妙にリアルなチンコは存在感たっぷりで、ぼくに謎のプレッシャーを与えてくる。そして背中にはデカパイの女、はっきし言ってとんでもなく居心地が悪い。もしかして、これはぼくに与えられた試練なのか。  それならぼくは引かない、受けて立つと気合をひとつ。……意気込んだまでは良かったものの── 「だからモンスターじゃねえって」 「痛っ。もう、パシパシ叩くのやめてよ」  やっぱり兄ちゃんに頭を叩かれてしまった。 「おまえは考えてることがバレバレだっつの」 「うわあっ、それで叩くのはやめて」  最後に兄ちゃんはリアルチンコでぼくのおでこを叩く。その質感にぞわぞわと鳥肌が立ち、急ぎ手で払いのけてガードした。  4 「じゃあ郁、服を脱いだら尻を俺に向けて横になれ」 「……ほんとうにするの」 「特別授業して欲しいんだろ?」 「うっ……」  兄ちゃんがグロテスクなオモチャをぼくに向け、「さっさと脱げよ、男だろ」と理不尽なことをいう。手を動かすたびに、いちいちオモチャがプラプラ揺れるのが妙に腹立つけど、ここで下手なことを言ってはひどい目にあわされそうだ。  かなり不安になってきたけど言うとおりにするしかない。セーラーシャツと肌着を脱ぐと、ショートパンツとブリーフを一緒に下ろす。最後に靴下を脱ごうとしたら、兄ちゃんが「靴下はいい」と止める。  もしかして兄ちゃんは靴下フェチかもしれないと思ったけど、地雷かもしれないので聞かないでおいた。  今はベッドに深く腰かけ壁にもたれる兄ちゃんの足をまたぐと、おちりをつきだすようにしてハイハイのポーズを取る。これは想像以上に恥ずかしい格好だ。誰かに知られるようなことになれば、ぼくは生きていく自信がなくなってしまう。  おとなの性教育を受けたと友達に自慢したいけど、これはどうあっても封印しておかないとぼくが困る。兄ちゃんの顔に向けおちりをモジモジ振りながら固く決意していると、突然ひやりとしたものがちり穴(・・・)を直撃した。 「うわあっ! な、なに!?」 「これだ」 「なんなの、その液体」 「ローション。おまえの尻を解すのに使う」  たった今ぼくは衝撃的な真実を聞かされた。  あのボトルに入っているのはローションという代物で、なんとぼくのちり穴を解すために存在するという。これは新手の攻撃かとショックを受けるより先に、兄ちゃんがぼくの考えを読んで口にする。 「言っとくけど攻撃用のアイテムじゃねえからな、おまえはゲームにハマり過ぎだ。まあ簡単に説明すっと、ローションで滑りをよくして尻の孔に指をつっ込む。それで掻きまわして孔を拡げんだ」  とても現実とは思えない、ぼくは自分の耳を疑いそうだ。ちり穴に指をつっ込むだって? はい無理、そんなことされたら血がでちゃう。それに腹をこわしてデッカイほうのお漏らしをする、もちろん拡がったちり穴では出放題だ。  間違いなくぼくは特別授業を甘く見ていた。おとなの性教育とは変態プレイのことだったのだ。  ビビリおののく可哀想なぼくなどお構いなしに、兄ちゃんは容赦なくちり穴めがけ指をつっ込む。 「きゃふうっ」 「おらっ、もっと力抜けって」 「いっ、あっ……無理……ぬ、抜いて……指、指」  苦しくて気持ち悪くて今すぐトイレに行きたい感じがして、とても我慢ができそうもない。歯を食いしばりムズムズに堪えていると、兄ちゃんが優しい声でぼくを誘惑する。 「もう少しだけ我慢しろ、そしたら気持ち良くなってくっから。それによく解しておかねえと、とてもじゃねーが玩具なんて入んねえだろ」 「うへっ!? どこに何を入れるって──あっ、ああんっ」 「なんだ可愛い声が出るじゃねえか」 「や、やだあっ……ああんっ」  それから一時間近くちり穴をもてあそばれ、恥かしい声をぼくは上げまくるのだった。  5  それから日曜になると兄ちゃんの部屋で特別授業をするようになった。  はっきし言って気は進まないけど、ぼくは兄ちゃんが大好きだから呼ばれると断われない。それに正直なところ、変態プレイも三度目になると慣れてきたのか気持ち悪さはなくなって、代わりに妙な感覚がクセになりつつある。  はじめは一本だった指は二本に増やされ、今は三本までちり穴に入るようになった。人間の身体は不思議なもので、どれだけ改造されても元に戻ろうとするのか、ちり穴が拡がったままという悲惨なことにはならないようだ。  おかげで学校にいってもお漏らしをすることはなく、必殺お漏らしウンチ野郎とあだ名をつけられずに済んでいる。それともうひとつ、便秘に悩まされることがなくなった。毎朝トイレで快腸、身体が軽い。  そしてまた次の日曜日。  今週はいつもの変態プレイだけではなく、実践をまじえてひとつステップアップすると言っていた。 「大丈夫だ、安心しろ。楽しみにしてな」──兄ちゃんの言葉を疑うわけじゃないけど、それでも安心だけはしちゃいけないような気がする。  どうしてか、それはうまく説明できないけど、ぼくのなかの何かが「おちりを守れ」と言っている。  だけど約束をした以上それは守らなくてはいけない。最後まで授業を受けると誓ったんだ、勇気を出して兄ちゃんの部屋に向かう。ドアのまえに立ちノックをする。 「兄ちゃん」 『おお、入ってこいよ』  いよいよだ。このドアを開いたら後戻りはできない。それでもぼくは───  ドアを抜けるとソファに座る兄ちゃんがぼくを手招きする。テーブルには教材のローションとティッシュペーパー、兄ちゃんの手にはいつぞやのリアルチンコが。  今日はアレを使うと言っていた。どうやって使うのかは薄々想像がつくけど、あえて考えないようにしてきた。そうでないとクジけそうだから……。 「兄ちゃん、それ……」 「春兎二号だ。はやく来い」 「うっ……」  オモチャに自分の名前をつけるなんて、さすがだ兄ちゃん格好いい。だけどそれをぼくに向けてウネウネさせるのはやめて欲しい、今にも心が折れてしまいそうだ。深呼吸をしながら無心に服を脱ぐ。 「俺の足にまたがれ」 「うん」  これまではいつもの流れだ。兄ちゃんのひざにまたがると、自ずとぼくのおちりは盛り上がる。するとつぎにちり穴の周りにローションを垂らされる。これがけっこう冷たくて、ぴゃっと飛び上がりそうになる。  そして兄ちゃんの指がちり穴に入ってくると、柔らかくなるまで掻きまわされる。途中で何度かローションを足され、滑りをよくして指も増えていく。三本つっ込まれても受け入れられるようになったけど、それでも苦しくて目じりから涙がこぼれる。  くちゅくちゅと恥ずかしい音がする。それがぼくのちり穴から立つものだと考えただけで顔から火を噴きそうだ。充分に解したちり穴はもう閉じることなく口を開いていて、兄ちゃんは満足したように「バギナの完成だ」とぼくにいう。 「バギナ? なにそれ」 「んー? これつっ込むところ」  魔法の呪文みたいな謎の単語の説明を求めると、適当な答えが返ってきた。それと同時に、ぼくのちり穴はあり得ないほどの衝撃を受ける─── 「ああっ、うああ──っ!」  いったい何をしたんだ兄ちゃんっ! 心臓が悪いひとだったら確実に止まっていたぞ。  下半身がおかしい。いくつもの妙な感覚は、痛くて苦しくて気持ち良くて気だるい要素を合体させたみたい。お腹のなかにすごいものが居据わっている感覚、もしかしなくても兄ちゃんは”これ”と言っていた。  これとはつまりリアルチンコ……。  身体中からどっと脂汗が出そうだ。あんなデカいモノをつっ込むなんて、腹のなかに収まる内容物が飛びだしたらどうする。後ろからつっ込まれたからきっと出る場所はチンコの穴だと考えていると、兄ちゃんがぼくのチンコをまさぐり変なことを言う。 「おまえ後ろイキしたのかよ。やるな」 「後ろイキ?」 「おお、尻だけで射精するこった」 「しゃせい? ちり文字のこと?」 「……おまえ本気で言ってる?」  なんのことやらさっぱりで頭をひねっていると、兄ちゃんはぼくの知らないおとなの世界を教えてくれた。  しゃせいとはつまり”射精”のことで、チンコからオチッコ以外のものが出ることをいう。男なら誰でも出す物質で、それがないと子孫を残せないという。たぶん学校の性教育で、そんなことを聞いたような気がする。  ぼくをつくるのに父さんは大変な苦労をしたんだと感心していれば、兄ちゃんが「それ違うからな」とぼくの納得にケチをつける。それから射精とは気持ち良いことをしなければ起きない現象だとも兄ちゃんは言う。 「じゃあどうしたら出るの?」 「おまえオナニーしたことねえの?」 「オナニー? なにそれ」 「マジか。ひょっとして、射精したの初めてか」 「よく分かんないけど、こんな白いの出たのは初めてだよ」  兄ちゃんの手をアメーバーみたいに絡みつく白い液体に目をやりながらそう答える。すると兄ちゃんは「そっか。じゃあ郁の精通記念日は今日だな」と微妙な記念日をつくり、「郁の精通はアナニ―だ」とケラケラ笑う。  意味は分からないけど、喜ぶべきことでないのは理解できた。むむむと気分を害しているぼくに、つづいて兄ちゃんは「けど初めての射精が玩具というのは許せねえな。おまえお仕置き決定ね」なんてひとでなしなことを言う。 「お仕置きってなに!? そんなのぼくのせいじゃない──ああんっ! もう、春兎二号グリグリするのやめてよっ。さっさと抜いて」 「抜いたらお仕置きになんねーだろ。今度は前と後ろ両方オナってやっから、存分に射精してみせな」 「うっ、あっ……やだっ……ああんっ、やややだあ──っ!」  ちり穴に刺さったままのオモチャを手にすると、信じられないことに兄ちゃんはそれを抜いたり挿したりとくり返す。それからもうひとつの手はぼくのチンコを掴み、揉んだりこすったりをくり返す。  白い液体の正体は”精液”というらしく、匂いを嗅がされ意識が飛びそうになった。それを迷惑にも鼻先に塗り込められ、今もやんごとなき匂いに悩まされている。  その精液で滑りがいいからなのか、兄ちゃんの手でこすられるチンコはどんどん気持ち良くなってきて、それ以上に驚くべきことは春兎二号がちり穴を行ったり来たりするたび激しい感覚が生まれるってこと。 「ああっ、やっ、あっ……ん、ぅ」  こんなにも気持ちいいのは生まれて初めてで、それがチンコとおちりからだなんて怖すぎる。ぼくの身体どうなっちゃったの? おとなになるって怖いことなのかと、今更ながらに恐怖に襲われ涙が出てきた。 「泣くなよ。そんなにも気持ちいいのか?」 「うっ、うえっ……ちがっ、うっ……ああっ」  怖いから泣いているのに、兄ちゃんにはそれが伝わらない。だけど気持ちが良くても涙が出るなんて、ぼくはどうかしちゃったんだと目をぎゅっと閉じる。いっそう深くを春兎二号で突かれたときだ。 「ああっ、あああ──っ!」  おちりの奥深くがカァと熱くなって渦巻きそれが爆発すると、チンコが焼けるような感覚がして耐えられずに悲鳴をあげた。 「本日二回目の後ろイキな。けどチンコ握りしめてっから不発だろ?」  兄ちゃんが言うようにぎゅっと握られては出るものも出ず、まるで蛇口をつたうホースの水を指で止めるように今にも破裂しそうだ。それを分かっていて、あえて兄ちゃんは訊いてくる。つまりはこれがお仕置きか─── 「やだやだやだあっ、兄ちゃんのひとでなし──っ!!」  6  すんででお預けを喰らわされて腹が立ち、兄ちゃんの足から飛び降りるとちり穴からリアルチンコを引き抜き投げつけてやろうとした。けど今までぼくのなかに入ってたやつだ、武士の情けでそれはやめておく。  ひとりで気持ち良くなる方法は覚えた、部屋に戻り満足のゆくまでチンこすりしれやれと兄ちゃんから遠ざかってみたもの、ぼくの腕を掴むと「まだ終わってねえ」と兄ちゃんが言い放つ。 「もうやだよ。だって兄ちゃんイジワルなんだもん、ぼく部屋に戻って──」 「自分でするってか? 一度覚えた快感だ、猿みてーにヤりまくりてえ気持ちは分かるが、それはまた今度に取っておけ。楽に玩具をくわえ込めるようになったんだ、つぎは兄ちゃんのをくわえたいとは思わねえ?」  いちいち言うことが下品な兄ちゃんは、「春兎二号より一号のが気持ちいいと思うぜ?」とアピールする。それには嫌だと即答しかけて──けど好奇心のほうが勝り「うん」とうなずきUターンした。 「じゃあベッドのうえで横になれよ」 「うん」  言われるままにベッドによじ登るとこてんと寝転ぶ。兄ちゃんの顔に一度は投げつけようと思った赤黒チンコは、ぼくの手からひったくると兄ちゃんは箱のなかに片付けてしまう。  身の危険は感じ取っていたのだろうか。いやそれよりも、洗わず箱にしまうと後が怖いぞ。そんなことを考えていると、兄ちゃんは「余裕だな」と嫌な笑い方をする。 「そんなつもりは……──っ」  言いかけたセリフをのみ込む。だって兄ちゃんが服を脱ぎ始めたから。いつも風呂で見てるのに、どうしてか今はドキドキが止まらない。シャツを脱いだときに盛り上がる腕の筋肉は超人のように、青い血管が浮き上がっている。  胸はむっくりと腹は割れまくり、引きしまった腰からジーンズと下着を取っ払ってしまうと、今度はぶら下がる巨大チンコに目がクギづけだ。デカい、デカすぎる。いつものフニャチンではない、ビンビンにおっ勃つデカチンコだ。  これはヤバい、逃げなくては。前言撤回、ぼくはまだ子供だおとなの授業は早すぎる。あんなバケモノをつっ込まれでもすれば、確実にぼくのおちりは割れてしまう。いやもう割れているけれど……ああ、笑えない。  兄ちゃんがぼくに背中を向けているうちに、こっそり音を立てずベッドから降りようとして──捕まってしまう。 「逃げてんじゃねえよ。郁は俺のもんだろ、俺が嫌いか?」 「そそそそんな……嫌いなわけない」 「だったら俺に背を向けんなよ、傷つくだろ」 「兄ちゃん……」  淋しそうな兄ちゃんの顔を見た瞬間、ああなんてぼくは悪い子だと後悔した。ぼくが兄ちゃんのことを大好きなように、兄ちゃんもぼくを大好きでいてくれる。好きな相手に逃げられてしまったら、すごく傷つくのはあたりまえなのに……。  ごめんね兄ちゃんと謝ると、ベッドに戻り横になった。するとぼくのうえに兄ちゃんが乗ってきて、それから耳もとで「それにまだお仕置きは続いてるからよ。観念して俺に食われろ」と信じられないことを言う。 「そんな……兄ちゃんのひとでなし──っ!」  うっかり兄ちゃんに騙されるところだった。もう絶対に兄ちゃんのうまいセリフには騙されないぞ。  その後ぼくの身に起きたことは容易に想像がつくと思う。兄ちゃんのバズーカチンコをつっ込まれ、ぼくのおちりは見事真っ二つに割れてしまった。何度もぼくに出し入れしては、たくさん白いのを注がれてしまった。  でも嫌じゃない。むしろ嬉しいと思うのは、ぼくがおとなの階段を上ったからなのか。  兄ちゃんが教えてくれた。身体をつなげる行為を”セックス”というそうだ。その行為は好きな者同士としかやってはいけなくて、だからぼくらはいっぱいセックスをしてもいいってこと。  けど絶対に誰にも知られてはいけない。父さんにも母さんにも友達にも、もちろん学校の先生にも秘密だ。ぼくと兄ちゃんだけの秘密の遊び、少しだけおとなになったぼくの性教育。 「郁、また来週もシような」 「うん」  兄ちゃんにたくさんおちりを(つつ)かれて睡魔が襲う。ふわふわと夢見心地のぼくをぎゅっと抱きしめ、兄ちゃんが優しい声でおねだりをする。すごく疲れるけど、ぼくもまた来週が楽しみで仕方がない──────  おわり

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