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第12話
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スーウェンさんは、次の日もその次の日もお店に来なかった。もう夜も深くなった公園で周囲を見回しては、肩を落とす日が続いた。唇を噛みしめ俯く。
会いたい。
会いたかった。
お礼がしたい。話がしたい。声を聞きたい。笑った顔を見たい。
会いたい。
『スーウェン、ちょっと前に来てたよ』
エリアさんのその言葉に、手の力が抜ける。持っていた鞄が落ちた。「え」と間抜けな返答をしてしまう。
え、だって、まだ、開店前で、まだ、看板だって出していないのに。そんな。
『そうなんです、か』
エリアさんの顔を見れない。うまく笑えない。鞄を拾う動作にかこつけて視線を逸らす。スーウェンさんはきっとまたお店に来る。また絶対に会える。それなのに、今会えなかったことが、酷く残念で悲しかった。
もっと早く起きて、もっと早くにお店に来ていれば。そんなどうしようもないことを考えてしまう。
『ノゾミくんのこと心配していたよ。体調大丈夫かって。もう何日過ぎたと思ってるんだって怒っておいたから。あいつ、今、最高潮に時間感覚狂ってるわ』
気に掛けてくれたんだ。
忙しいんだろうな。リントスとの戦争、新兵器――救世主のせいで、僕の、せいで。段々と思考が沼に沈んでいこうとする。
『ノゾミくん?』
エリアさんの怪訝そうな声に、ハッと我に返り慌てて首を横に振った。ダメだ、ダメだ。考えるな。
『大丈夫です、すいません』
厨房の奥に入りエプロンをつける。手を洗い、店を開ける準備を始めた。エリアさんが前もって焼いてくれているケーキやパンの飾り付けや棚だしが朝の仕事だ。
力を入れて背筋を伸ばし歩く。
『ごめんね。引き留めておけばよかったね』
エリアさんの申し訳なさそうな顔に、焦る。
『あの、僕が一方的に会いたかっただけなので、スーウェンさんの仕事に迷惑かけられないですし』
頬が熱い。エリアさんにはバレバレだったんだ。みっともないな。気持ち悪いよな。僕に会いたいなんて言われても。むしろ、そう伝えられないでよかった。
エリアさんは少し笑って言った。
『スーウェンも会いたがってたよ』
僕も笑う。
『ありがとうございます』
エリアさんは優しい。気遣ってもらっているとわかる。心は沈んだまま、それでも、自然と口角が上がった。
ふとすれば曲がってしまうそうな背をもう一度意識して伸ばす。
今日も頑張ろう。
***
『……ノゾミくん、目の下、隈できてるよ』
ずずいとミラさんが顔を寄せてきた。白い指先が僕の目元に触れる。反射的に目を閉じた。それから、恐る恐る開ける。
ミラさんは眉根を寄せ、首を傾げていた。
『悩み事? 大丈夫? 疲れてる?』
『大丈夫ですよ。ええと、ちょっと、眠れなくて』
『それだけ? また体調悪いんじゃ』
『ほ、本当に大丈夫です!』
じぃとそんなに強い視線で見つめられるといたたまれない。『大丈夫』を必死で繰り返し、にっこり笑ってみせれば、ミラさんはようやく納得してくれたようで、『わかった』と呟くように言い、開店準備にとりかかった。
変につっこまれないで、助かった。だって、なんて答えればいいんだ。
スーウェンさんには会えないままで、色々ぐるぐる考える夜が続いたせいだなんて、言えるわけもない。
そんなの気持ち悪すぎるだろう。
手書きの黒板を手に持ち、扉の外の壁へ立てかけた。朝の空気は冷たく澄んでいて、頭が冴える。
数歩下がって、黒板とお店のバランスを見てみる。うん、良い感じだ。
今日も1日、しっかり働こ
『おっ、おはよう、ノゾミ』
う。
振り返る。
ふらふらふらふら、足取りのあやしいスーウェンさんが片手を挙げ近づいてくる。
途端、心臓が跳ね上がった。
『い、いらっしゃい、ませっ』
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