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第34話

 肩を掴まれ、ぐと後ろに体重をかけられる。倒れる間際、後頭部に手が添えられた。そうっと静かにベッドに仰向けにされる。ワンクッション入れてくれたらしい手が抜かれた。  天井を背景に、スーウェンさんがいる。僕をのぞき込んでいる。瞳の色が、今はなんだか真顔で、怖い。 『スー、ウェン、さん』  誘ったのはいいとして、スーウェンさんがそれに応えてくれたのはい、いいとして、すごく、嬉しくてありがたいんだけど、僕は、これからどうすればいいんだろう。  自分の乏しい知識が情けない。  自分から誘ったくせに、これ以上どうしたらいいのかわからない。  これじゃあ、スーウェンさんを喜ばせられない。もっと、勉強しておくべきだった。  途中でやっぱりダメとか、そういうことになったらどうしよう。  せっかく、せっかく。  ふと、手に熱いものが触れた。  手、僕の手、どこに。視線を下げると、スーウェンさんのシャツをこれでもかという程しっかり握りしめていた。  その上から、スーウェンさんが触れている。   『わっ、ご、ごめんなさい。皺に』  何やってんだ。これ以上、スーウェンさんにマイナスポイント与えてどうする。  慌てて解こうとするも、被さったままのスーウェンさんの手に止められた。 『いいよ』  そう笑う。 『う、は』  たくさんキスが降ってきて、必死でそれに応えている内に頭がぼぉとしてくる。唇、頬、額、首筋、耳元、鎖骨、肩……。  もう何か手を出す余裕なんて消え失せていた。たくし上げられた服の下、スーウェンさんの大きな平たい手が這い回る。  熱い。 『ん、んっ』  親指が、乳首に触れた瞬間、身体が勝手に震えた。その反応に疑問符いっぱいの僕に対して、スーウェンさんは満足そうに口角を上げていた。   『ス、ウェンさん、あ』  押しつぶしたり、摘まれたり、僕はその度に楽器のように声を上げ続けた。うるさいんじゃないかと、両手で自分の口を覆う。 『ん』 『ノゾミ』 『んん』 『いいから、ノゾミ』  手首が捕られ、頭上にひとまとめにされる。涙で歪んだ視界にスーウェンさんが映る。天井の位置が変わっている。  動かされたのか、自分で動いてしまったのか、足まで上に上がり、普段寝る体勢になっていた。   『声、聞かせて』  耳元で囁かれ、目をつむる。  くすぐっ、たい。  それからも、時折胸で遊ばれ、声を上げてしまった。こみ上げる涙をスーウェンさんが何度も舐めとってくれる。  熱い。  息を吸い、吐く。それだけで酷く体力が失われていくようだ。いつのまにか、足が大きく左右に開かれていた。吸って、吐く。その時、ツプと身体の内に何か入り込んできた。  ぞくぞくぞく鳥肌が立つ。 『ひ、っ』 『大丈夫だから、』  恐る恐る見れば、指が、スーウェンさんの指が、僕の後ろの穴に。  ダ。 『ダメ、き、汚』  ダメだ。  僕、スーウェンさんになんてことさせてるんだろう。ぼろぼろ緩んだ涙腺から涙がこぼれ落ちる。  身体を起こそうとするも、力が入らない。それどころか、もう一度、スーウェンさんにしっかり固定されてしまった。  ポンと、間抜けな、何かの蓋が開く音がする。 『スーウェン、さん、やめ、て下さい。も、』 『ちょっと冷たいよ』  かすれた声、スーウェンさんの息も荒いことにようやく気がついた。   『ひ、あ』  冷たい粘稠な液体が、太ももから、おしりに落ちてくる。チュプチュプ、静かな空間にさっきよりも酷い、スーウェンさんが指を抜き差しする音が響き、僕は完全に恐慌状態に陥った。  そんな僕をスーウェンさんが真上からしっかり見据えている。  『大丈夫だから』と言っているような気がした。  大きく激しくなっていくチュプチュプという音とともに、痛みと異物感とそれから、よくわからない感覚に襲われる。   『ひ、っく、う、スーウェンさん、も、もいいから』  もういいから、そんなことやめて下さい。   『スーウェンさん、あ』  突然、身体の芯を電撃が走った。電撃、じゃない、気持ちいい、とか。   『あ、ああ、あ』  声、みっともない。  けど、堪えきれない。  僕にはわからないけれど、スーウェンさんは内の1カ所を重点的に触れ始めた。触れるというか、突かれている。   『や、スーウェン、さん、そ、こ』 『うん、わかった』 『やだ』  『わかった』と言いながらも、スーウェンさんは指を動かすのをやめなかった。僕はもう本当にもういっぱいいっぱいで、嗚咽を漏らしながら首を横に振りながら、されるがままになっていた。  やがて、指が抜ける。  1本だと思っていた指は、3本だったようで、注がれた液体なのか僕の芯から出たものなのか濡れていた。  灯に照らされ、光っている。それを見せつけるようにスーウェンさんは舐めた。  かぁと全身が熱くなる。   『ス、ウェンさ、僕、僕、も』  手を伸ばす。届かない。スーウェンさん。 『ん?』  意志が通じたのか、スーウェンさんは少しだけ身をかがめてくれた。そのスーウェンさんの頬に触れる。 『僕も、する』 『……え』  露骨に引きつった顔に、傷つく。期待してないってことだろうか。 『気持ちよくなってほし、い。僕は、も、いいから』    たくさん汚い部分に触れさせてしまって、たくさんキスしてくれて、これじゃあもらってばかりだ。  どうしたらいいのかはわからないけど、言ってもらえれば何だってする。 『どしたら、いい? スーウェンさん』 『……またそんな』  スーウェンさんは目を覆い天井を仰ぐと深々とため息を吐いた。『こんな場面で可愛いこと言うなって』そう、漏れ聞こえた。   『え、っ、わ』  足が抱えられ、高く上げられる。スーウェンさんの肩にかかとを引っかけられた。 『ごめん』  低い低い声、聞き取れないまま、ズと、指以上の質量が内に入ってきた。声もでない。ズズと、奥へ奥へ侵入される。  息、詰まる。  スーウェンさんの、僕のナカに入ってる。入ってきてる。  痛い、苦しい。声、出ない。 『ノゾ、ミ』  近い距離で息遣いがする。薄く目を開けると、スーウェンさんの顔がすぐ間近にあった。息、熱い。  眉間に皺寄せて、スーウェンさんの方が苦しそうに見えた。   『好きだよ』 『スーウェン、さん』  今度は失敗しないように、頭を少し持ち上げ、口づけた。歯は、あたらなかった。 『も、す、き。僕も、好き!』  スーウェンさんは苦笑した。 『本当にもう知らないから』  そう囁き、キスをくれた。 『ん、ああっ』  熱いモノが抜けかけ、またすぐ入ってくる。何度も何度も、痛みは段々麻痺していった。じゅくじゅくと液体が泡をつくっては弾ける。 『あっ、あ、あ』  やがて、そこには快楽しかなくなっていた。  つい声の上がってしまうあの一点を突かれに突かれ、どうにかなってしまいそうだった。 『好きだよ、ノゾミ』 『あ、っ、ダメ』  これ以上はというところで、スーウェンさんの指が僕の芯に触れた。チュクチュク濡れているらしいそこを扱かれる。   『ダメ、あ』  爪が芯の先を故意にか偶然にかひっかいた。その途端、頭が、真っ白になった。 『あっ、ん――っ』  出る。  弾ける。  それと同時に後ろにも力を入れてしまったらしく、スーウェンさんのモノもナカで弾けた。熱い。どろどろ、ナカに。   『スーウェン、さん』  初めての、強烈な快楽に貫かれた僕の意識は段々と沈んでいく。スーウェンさんの汗が落ちてくる。ぽたぽた、『好きだよ』という言葉も一緒に落ちてきた。  嬉しい。  今日はたくさん『好き』って聞けた。僕のこと、好きだって。  身体はこんなにも重いのに、心がすぅと軽くなっていく。    僕も、僕も好きだからスーウェンさん。  だから、僕を嫌いにならないで、スーウェンさん。  プツと、意識は途切れた。

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