6 / 15

明家との出会い(2)

 外は確かに、気持ちのいい風が吹いていた。火照った肌にひやりとするが、このくらいが心地いい。 「家、遠いのか?」  俺は答えなかった。見ず知らずの男に何故そんな事を言わなければいけないのか。元々機嫌が悪い事もあって、俺はだんまりを決め込んだ。  だが、男は俺が黙ったのをいいことにどんどん足を進めていく。酔ってフラフラの俺は、素面の男に抵抗する力がない。  そのうち、少しだけ怖くなってきた。行先も分からない、誰かも知らない相手に、連れて行かれる。店からだいぶ離れた、知らない場所で俺はようやく足を止めようと踏ん張った。 「気持ち悪くなったか?」 「ちが…」 「あぁ、やっと醒めてきて怖くなったか?」  言い当てられた事に、俺は動揺した。男が、ニヤリと笑う。危険な感じがして、逃げようとしたが周囲に人はいない。車の一台も通っていない。  焦った俺は、だが次の瞬間に男がやんわりと笑ったのに、驚いて声を上げそこなった。 「とりあえず、何もしないよ。ここから、後数メートルで俺が使ってる隠れ家がある。ベッドもシャワーもあるから、泊まってけ」 「うさんくさ…」 「じゃ、自力でタクシー呼んで帰るか? 正直その様子で車乗ったら、気分悪くなって途中下車だぞ」  『帰る』という言葉に、俺の思考が止まった。  帰る? 家に、また一人になる。具合悪くて、最悪で、その上また一人で悶々と考える一日を過ごすのか? 「…帰りたく、ない」  小さく、絞り出すように言った言葉を、男はしっかり聞いていただろう。そこからは何も言わずに、俺をその隠れ家とやらに引きずって行ってくれた。

ともだちにシェアしよう!