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ストリッパー、時々男娼
朝になると、隣で寝ていた桝井はいつの間にか居なくなっていた。
小机の上には、一万円札が五枚置かれている。
星一は、そのお金を財布に入れると、昨日もらった徳永の連絡先のメモが目に入った。
今は、朝の7時半。もしかしたら、仕事に出てるかもしれないと躊躇ったが、意を決して、ホテルの近くの煙草屋の公衆電話に小銭を入れた。
番号を回すと、『もしもし』と女性の声が聞こえた。
星一は、少しドキリとしたが、「あ、すみません……天城といいます。徳永さんご在宅でしょうか?」と改まった言葉で、電話を繋いでもらうように頼んだ。
『ちょっと待ってね』
親しみやすい声音だが、徳永の奥さんではなさそうだった。
それに安堵していると、『もしもし』と徳永の声が聞こえた。
『天城か?早起きなんだな』
「あの、この前約束した食事なんですけど、来週の日曜日なら大丈夫です」
『そうか。じゃあ日曜日の夕方に会おうか。場所は映画館の前の蕎麦屋でもいいか?』
「大丈夫です」
『じゃあ、楽しみにしてる』
そのまま電話を切ると、自分のアパートに戻った。
錆びた階段を上がり、203号室にはちゃぶ台と布団しかない。
彩りも何もない、無味乾燥した生活。
窓を開けて、突き抜けるような青空を見た。
(早く、日曜日にならないかな)
徳永と約束をした日、星一は夕方から出勤した。
浅草の裏道にある男性ストリップ劇場『ニューオリオン座』、ここが星一が働いている劇場だ。
けばけばしいピンクのネオンが、目に染みる。「ニュー」のところだけ、フィラメントが切れかかっているのか、チカチカしている。
重たい扉を押して開けると、音楽が鳴っている。もう夕方のショーが始まっているようだ。
星一は、階段を上がり楽屋に入る。
ロッカーに着ていた服を脱いで、腰に布を巻き、右肩に布を掛けた。
ミケランジェロのダビデ像のようである。
星一は、他のストリッパーのようには踊れないため、丸い舞台の上で、ただひたすらポーズをとっていた。
他のストリッパーとは違い、盛り上がりに欠けるが、若く美しい肉体をひたすらスポットライトの光の下に晒すと、客は前のめりになる。
いくつかポーズを取り、頃合いを見て腰に巻いた布を取り去り、右肩にのみ布を掛けた姿になった。
星一の背中の右側には二つの弾痕がある。
戦争で撃たれた傷で、あまり人には見せたくなかったため、オーナーにお願いして、右肩だけ布を掛けさせてもらいっている。
この仕事を始めて、大分経つが人前で裸を晒すのは恥ずかしい。
少し赤みを帯ながら、客にあられのない姿を見せると、客が喉をならすが聞こえた気がした。
そもそも、この仕事は自分から望んだ訳ではなく、オーナーにスカウトされたことがきっかけだった。
「頼む!この通りだ!給料もこれくらい出すから!!」
この言葉に誘惑を感じてしまった。
星一は、身寄りもなく、学もなかった。そのため、仕事をいくつも掛け持ちしながら、生活していた。
掛け持ちして働いたお金の倍はあった。
少し体を見せるだけでそれだけもらえるなら……と思い、引き受けてしまった。
(やっぱり、こんな仕事引き受けるんじゃなかった)
毎回舞台に上がる度に、押し寄せる後悔。
そして、その度に思い出されるのは、徳永の顔。
(もし、あの人に見てもらえたら……)
そう考えると、体が火照ってくる。
その妄想をしたのは、ちょうどショーの終わりがけで舞台袖に帰る途中だったため、客には悟られなかったが、舞台袖に戻るとすっかり星一の股間は熱くなっていた。
(徳永さん……やっぱり、俺、あなたが好きです)
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