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パーフェクト・ワールド・ハルⅢ-5

「絶対、絶対、嫌ですよ、俺! そんなもの!」 「そんなものって、優勝できる確率が一番高い良い手だと思うんだがなぁ。そこまで嫌がらなくとも可愛い新入生の通る道だ。諦めろ、榛名」  丸めこもうとする茅野に、榛名は断固拒否で手を机に打ち付けた。冗談じゃない。もともと冗談ではなかったが、水城と一緒に組んで出るとか、本当に、心の底から冗談じゃない。 「嫌なものは嫌です、俺は! おまけにそんな間抜けな理由でだなんて、絶対、嫌ですからね!」 「いくら榛名がそう言ったところで、もう俺と楓寮とで話は着いているからなぁ」  つまるところ、初めから行人の了承を奪い取るのみ、だったわけだ。黙り込んだ行人に、ここぞと茅野は畳みかけた。 「大丈夫だ、榛名。何回も言っているが、おまえ顔は可愛いから。少なくとも、うちの寮の新入生の中なら一番だ」 「だから、それ、全然、嬉しくないんですって」  隠しきれない疲れの滲んだ声に、隣から送られる視線に慮る色が強くなる。諦めるべきなのだろうか。いや、だとしても、せめてダブルはるちゃんなる出し物だけは回避したい。長考を始めた行人が哀れになったのか、成瀬が茅野に苦言を零した。 「茅野さぁ、さすがに本人の了承を得る前に、寮同士で結託してやるなよ。可哀そうだろ」 「可哀そうときたか。なら、おまえは、俺がじゃあそうですか、と。榛名を諦めて、こいつ以外の一年を指名し直したとして、そいつが嫌だと言ったら、また可哀そうとやってやるつもりか。キリがないだろう」  にわかに低くなった茅野の声に、行人は一つ諦めた。仕方がない。二番手に鉾が変わってくれることを期待してはいたが、どうもそれも厳しそうだ。仕方が、ない。いつまでも駄々をこねてしこりを残す方が後々を考えれば面倒だ。悪手だ。行人はそう言い聞かせた。それに、――、寮の縦社会のなんたるかも、引き際も、さすがに理解している。寮生活も四年目だ。頭を押さえつけて決定と言わず、何度も説得に来てくれているだけ、茅野が誠実だと言うことも。だが、せめて単独で出たい。そして速やかに義務だけ果たして舞台を降りたい。

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