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パーフェクト・ワールド・ハルⅢ-6

「あの、俺」 「んー、なら、代わりに俺が出ようか?」  意を決して発した声と成瀬の提案とが被って、思わず口を開けたまま行人は茅野と顔を見合わせた。そして視線を移した。 「成瀬、さん?」 「成瀬が?」 「うん。要は意外性があったら良いんだろ? そのハルちゃんに負けないくらいの。だから楓寮には悪いけど、断っといて」  あまりにもしれっと応じられて、行人は視線を茅野に戻した。助けを求めた先で、茅野は何とも言い難い顔で天を仰いでいる。 「成瀬か。他の寮は一年生ばかりだろうし、どうだろうな。二年前ならおまえに白羽の矢が当たっていてもおかしくないが、もうガタイも違うから似合わないだろ。一年生特有の華奢さの生み出す性別の曖昧さが受けるからこそのミスコンであって、仮装大会じゃないんだぞ?」  「ほら」と言わんばかりに固まっていた行人の腕を茅野が取る。 「俺の指が余るくらいの、この手首の細さ。俺たちにはもうないこう言った未発達さが良いんじゃないか」 「おまえな、茅野。寮長のくせして、一年生が警戒しそうなことを言うな。してやるな。と言うか、別に前例がないわけでもないだろ。ほら、俺も一年の時に、ごねにごねて、三崎さんに代わってもらったし」 「だからそれが! うちの黒歴史だと言っているんじゃないか。ものの見事に最下位だった事実を忘れたとは言わせんからな。今度はおまえがする気か、それを」  恨みがましく唸って、茅野が手を放した。華奢で悪かったな、未発達で。あと二年後にはきっと茅野くらいにはなっているはずだ、たぶん。……食事量から増やそうかな、もうちょっと。現状に付いて行けない頭で逃避気味に、袖から覗く手首に視線を落としていると、茅野が唐突に嬉しそうな声を上げた。

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