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パーフェクト・ワールド・ハルⅢ-7

「向原!」  その名前に、行人は勢い、顔を上げた。 「おい、向原って。そう嫌そうな顔するなよ」  大きく手を振って茅野が、姿を見せた長身を呼び寄せる。高藤に言われなくとも、人の好き嫌いが顔に出やすい性格を自覚はしているので、行人は努めて無表情を取り繕った。それが通用する手合いかどうかは別として。 「でかい声を出さなくても聞こえるっていつも言ってんだろ。頭に響くんだよ、おまえのそれ」  この学園の実質的トップと称される一人だけあって、圧倒される整った顔をしている。どちらかと言えば中性的な風の成瀬とは違い、男性的な色香のあるそれ。怜悧な印象を放つ色素の薄い瞳がすっと行人を撫でていった。 「大きい声を出したくもなる。まぁ、聞け、向原。おまえの相方がまたわがままを言っていてだな」 「わがまま……、いや、わがままは言ってねぇだろ、わがままは」  きまりが悪そうな成瀬の受け答えに、向原が小さく眉を上げた。 「へぇ、じゃあ、なんだって?」 「どうせ聞こえてたんだろ、おまえ」 「ここであれだけ騒いでたらな。廊下まで丸聞こえだ」  微かな笑みを浮かべて、向原が成瀬のすぐ傍に手を着いた。威圧を感じたのは行人だけなのか、当の成瀬は苦笑気味に眦を下げただけだった。 「最後の年くらい、寮に貢献しても良いかと思って。今まで何もしてなかったし」 「貢献する気なら、そこの一年を説得した方が、よっぽど喜ばれるんじゃねぇの」 「だから、それは……」 「そう、それだ! さすが向原。榛名、ほら、榛名。副会長にまでこう言われているわけだが、どうだ?」 「だから。そう無理矢理、断れない雰囲気に持って行ってやるなって」 「おまえが甘すぎるんだ、榛名に。なぁ、向原?」  自分の処遇で三年生が頭越しに議論している状態は落ち着かない。  視線のやり場に困って彷徨わせているうちに、ばちりと向原と眼が合った。

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