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パーフェクト・ワールド・ハルⅢ-8

「普段からあれだけこいつに面倒見てもらっておいて、恩を返すどころか次は恥かかせる気か?」 「誰もそんなことしてません!」  鼻先で笑われて、行人は語気を荒げた。 「じゃあ、やるんだよな? おまえが」  当然、と言わんばかりに細められた瞳に、勢いそのまま請け負おうとした台詞と、成瀬のぼやきとが重なった。 「恥」 「え?」 「恥とまで言うか、おまえ。向原」 「いや、まぁ。そう落ち込まなくとも」  何故か急に取り成し始めた茅野が、そこまで言って、ふと真顔になった。 「顔だけ見てたら、似合わないこともないか。いや、でもなぁ」  イケなくはないにしても、ちょっと金がかかるな。いや、でもなんとかならなくもないか。後半は完璧にひとり言の調子だ。  ひしひしと感じる嫌な気配に、茅野の思考を止めるべく上げかけた声は、またもや成瀬に制された。「大丈夫」 「ある意味で楓は分かり切った主役を出してくるだけだろ? だったら、わざわざそこに乗っからなくても、予想外のところから……まぁ、出来上がりはともかくとしても、インパクトが強いのが転がり出てきた方が目立つと思うし」  途中からは行人に、と言うよりかは茅野に言い聞かせている風だったが。言葉をいったん区切った成瀬が、茅野に向かって、にこと笑いかける。どこか挑発するような嫣然としたそれで。 「だから、任せとけよ、茅野。楓と共同戦線組まなくても、最後くらい優勝させてやるから」  ぽかんとした顔で固まっていた茅野が、一拍を置いて深く息を吐き出した。 「本当に、黙ってたら、だな。おまえのそれは」  俺が成瀬璃子のファンだと分かってやっているだろう、と。続いた言葉に行人は思わず茅野を二度見した。硬派な茅野のイメージからして意外な事実だった。その茅野は、刺さるようなもう一つの視線に気づいているのかいないのか。自身を納得させるように独り言ちてから、「良し」と力強く頷いた。

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