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パーフェクト・ワールド・ハルⅢ-9

「じゃあ、そうするか。おまえがそうまで言うなら。ただし、三崎先輩のときみたいなイロモノ枠にはしないからな。やるからには徹底的にやってくれるんだよな?」 「はいはい、了解。全部、茅野に任せます。精々、美人にしてやって」  いかにもどうでも良さそうに成瀬は請け負っているが、どうでも良いわけがない。もしかすると、女のように見られるのが嫌だと思う自分と違って、成瀬にはたいしたことではないのかもしれないが、少なくとも行人にとっては大問題だ。だが、その成瀬が決めたことを、自分如きの一存で物申して良いのかも、よく分からなくなってきた。混乱しているうちに、ガタンと小さな音がした。そして呆れたような嘆息。 「良かったな、物好きがいて」  自分に向けられたわけでもない声音だったにも関わらず、行人はその肩を跳ねさせそうになった。不本意ではあるが、これもきっと本能が生む警戒心に違いない。  消えていく背を固まったまま見送っている行人とは反対に、年長者二人は気まずそうに顔を突き合わせている。 「おい。どうするんだ、成瀬。向原が臍を曲げたぞ」 「おまえが呼び寄せたのが原因だろうが」 「元を正せば、おまえが駄々をこねたからだろう」 「それを言ったら、おまえが行人に無理強いするからだろ」 「ならそれを言うなら」 「あの、俺」  低レベルの擦り付け合いに発展していきそうなそれに、もう一度、なら俺がと手を上げかけた瞬間。 「いや、大丈夫。大丈夫だから、行人」  最後まで言わせずに行人にいつもの顔で微笑んだ成瀬が、わずかに面倒臭そうに天を仰いだ。 「あー、……ちょっと行ってくるわ」 「そうしてくれ。下にまで響く声で揉めるなよ」  茅野のそれに、ぎょっとしたのは行人だ。冗談なのかどうかの判別がつかない。立ち上がった成瀬の袖を反射的に引きかけた指先を、彼のそれがそっと離させた。

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