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パーフェクト・ワールド・ハルⅤ-7
「なんで、その嫌な話を俺にするんですか」
溜まりかけた淀みを吐き出すように、口にする。
「俺は、成瀬さんみたいにはなれませんよ」
なれないのか、ならないのか、そのどちらもであるのかは、明確ではなかったけれど。中等部で生徒会会長を務めた一年間、ことあるごとに教師に言われた。きみがトップに立っていると安心感があるよ。さすがだ。まるで成瀬くんを見ているようだ。彼が可愛がっていただけはある。きみたちはどこか似ていて微笑ましいよ。嫌味のつもりは一切なかったのだろうと知っている。皓太が喜ぶと思ったのだろうとも理解している。けれど、――。
「誰もあいつみたいになれなんて言ってねぇだろ。と言うか、そもそも論として言うなら、あいつよりおまえの方がずっと健全だ。変わらないで済むなら、そのままの方が良い。ずっと」
苦笑した篠原がおもむろに放り出していたペンを手に取った。器用にくるりと回転させて、続ける。
「俺らは、言っても、今年で最後だからな。この一年は、……よっぽどのことがない限り、多少不穏であろうが何だろうが、このまま流れていくとは思うんだよ。中身はともあれ、成瀬と向原が上に立っている限りは。同学年の中でもあいつらの影響力は群を抜いてるしな、実際」
本当かどうかはさておいて、アルファの上位種様ってヤツだな、と篠原が笑った。
「ただ、おまえらの代は異分子が出ただろう。自らをオメガだと公表した『ハルちゃん』が」
入学式の真っただ中、新入生と在校生代表の前で臆さずに凛と告げた性の告白は、瞬く間に学園中に広がった。様々な思惑を巻き起こしながら。
「吉と出るか凶と出るかは、何年後かにならないと判断出来ねぇとも思う。ただ、俺には、……少なくとも、今のこの学園を平穏だと思っている人間には、『凶』になるとしか思えないんだな、これが」
その対抗馬になれと。もし言っているのだとすれば、それこそ買いかぶりすぎだ。そして、皓太自身に、そこまでの情熱はきっとない。だから、曖昧に頷くことしか出来なかった。少なくとも、自分や榛名や、櫻寮の同期生や、――そう言った、自分がよく知る彼らにとって、凶と出ない三年間になれば良いと願ってはいたけれど。
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