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パーフェクト・ワールド・ハルⅤ-9

「看板の作業進捗、見に戻ってくるわ」 「あっちもこっちも顔出して大変だね、フロア長」 「いや、基本、看板は四谷と朝比奈が纏めてくれてるから」 「じゃあ、笑顔で褒めてあげなよ。あの子たち二人とも、高藤に褒められたくてやってるんだから」  したり顔で荻原に告げられて、皓太は黙り込んだ。折角回復した気力が根こそぎ吸い取られたような、そんな気分に陥りながら。 「うわ、その微妙そうな顔! あの二人の前ではしないでよ、絶対。完成する前に拗ねられたら、間違いなく面倒なことになるから」 「分かってる。いや、手伝ってくれるのは、本当にありがたいから。うん、本当に」  半分以上己に言い聞かせている調子で応じた皓太に、荻原が不満げに眉を上げた。 「二人とも、中身はどうあれ可愛いのに。そりゃ、榛名ちゃんほどじゃないかもだけど。……と言うか、高藤はアルファのくせに、男に興味持たないよね。なんなの? 今時珍しいヘテロなの? それともオメガだったら男でもイケるの?」  勢い良く畳みかけられて、皓太は視線を泳がせた。学園在学中に誰かに手を出すつもりは毛頭ない、とどのつまり、男に興味はない、地で行く自分がアルファの中で少数派なことは否定しない。中等部のころから何度もベータと思しき同級生や後輩に言い寄られた事実があるのも否定はしないけれど。 「そんなんだから……」 「分かった。俺に対する愚痴はまた今度聞くから。ちょっと、一回、下に顔出してくる」

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