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パーフェクト・ワールド・ハルⅥ-1

[6]  どうして、この国から出る予定は一切ないのに、英語なんてものを学ばなければならないのか。行人が屁理屈を零す度に、よくできた同室者は「とりあえず大学に進学するにあたって必要だろ」と、呆れた風に諭しにかかるのだ。それがまた、自身の至らなさを目の当たりにするようで、居た堪れなさと「分かっちゃいるけど」の苛立ちへと変換されていくのだけれど。 「高藤のとこって、英文の授業、どこまで進んでんの?」  捲れども、捲れども。延々と続く英文に、行人はペンを投げ出しそうになる。薬の所為だけではなく頭痛が増しそうだ。けれど、特別クラスは確か、行人が開いている教科書の他にもレベルの高いそれが配布されていたはずだ。 「高藤?」  返らない呼びかけに椅子を回転させる。少し前までは上がっていたはずの頭がベッドに埋没していて、物珍しさに行人はそのまま腰を上げた。 「……寝てる」  ベッドを覗き込むと、静かな寝息が聞こえてきた。枕元に開いた本を置いたまま、寝落ちしたらしい。大人びた端正な顔も、こうして見ると自分と同じだと思える。普段がきっちりし過ぎているんだよな、とも思った。呆れ半分で。中等部のころから寮生委員会だ、生徒会だ。この同室者が暇そうにしているところを見たことがない。しかもそのすべてを本人が積極的にやりたがってかって出たものではない。かと言って、なぁなぁに手を抜くようなタイプでもない。  ――そりゃ、疲れてるよな。  この四月からは、みささぎ祭の準備で大忙しだ。日曜日の午前中くらい、寝かせてやるか。どちらにせよ午後からは、また集まりがある。時間を確認すると、まだ十一時にもなっていなかった。立ったついでだ。なにかカフェインを買いに行って、戻って来てから一時間きっちり続きをしよう。  ブランケットをそっとかけてやってから、行人は部屋を出た。

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