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パーフェクト・ワールド・ハルⅥ-4

「俺は夏まで帰らない予定。成瀬さんたちも残るって言ってたし」 「榛名ちゃんは本当に会長が好きなんだねぇ」  馬鹿にするでもなくしげしげと見つめられてしまって、行人は慌てて継ぎ足した。「高藤も残るって言ってたけど」 「はは、照れなくて良いのに。今、すごい可愛い顏してたよ。会長が羨ましいな。と言っても、会長は、榛名ちゃんのそれが貴重だってことも知らないんだろうけど」 「だったら、会長だけ追いかけてたら良いのに」  ぼそりと発せられた声は、けれど、人の少ない食堂ではっきりと行人の耳にも届いた。四谷だ。小動物のような黒目がちな瞳が、敵意をもって行人たちを見ている。 「まぁ、でも仕方ないか。今までは榛名の一人勝ちだったかもしれないけど、これからはそうも行かないもんね」 「なにがだよ」 「あれ? なんだ。知らないの、榛名。会長と水城くんの噂」  さも意外そうに肩を竦める動作に、行人はまた苛立ちが膨れ上がっていくのを自覚した。なんでこの学園のベータは、嫌味なヤツが多いんだ。ある意味で、アルファの方が嫌味じゃない。無論、例外もあるが。 「ちょっと、よっちゃん。そんな顔を見るなり喧嘩吹っ掛けなくても。仲良くしなって。あと三年間一緒なんだから」  どこかで聞いたような台詞で荻原が笑いながら仲裁に入る。媚びた声で「だって」と四谷が愚図っていて。何歳のつもりだ。そして可愛いつもりか。指に力が入って、紙コップがへこむ。まだ中身は残っている。気を静める効果も狙って、まだ熱いそれを行人は一気に飲み干した。輪に残っていた同級生と四谷が話し出したのを見て取って、荻原がこそりと声を落とした。

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