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パーフェクト・ワールド・ハルⅥ-5
「ただの噂なんだけどね。聞きたい?」
「べつに」
「まぁ、いずれかは榛名ちゃんの耳に入るだろうから、慌てて今ここで聞かなくても良いかもね」
「悪い噂なのか?」
懸念の方が強くなった声に、荻原の目じりが下がる。「優しいね、榛名ちゃんは」
「だから、高藤も一緒にいて楽なだけだと思うんだけど。よっちゃんたちは、まぁ……だから、妬いちゃってるんだね。榛名ちゃんには不本意かもしれないけど」
優しいのは、そんな風に解釈して見せる荻原だろう、と。嫌味ではなく思った。口にはしなかったけれど。
「ついでに言うと、噂もべつに悪い噂ではないとは思うよ。榛名ちゃんにとっては、分からないけど」
「俺にとって?」
「うん。まぁ、俺も直接その現場を見たわけじゃない又聞きの噂だけど。入学式の日さ、ハルちゃんは新入生代表だったでしょ?」
「そうだったな」
「そう。それで、会場の準備中に、ハルちゃん、一人でやってきたんだって。生徒会の人たちにも挨拶を、って」
真面目だからだろうね、と荻原が続けた。当然、誰だあの可愛い子って準備に駆り出されてた生徒は大騒ぎだったみたいだけど、そこで。
「会長と話してた時にさ、ハルちゃんが言ったらしいんだよね。僕と同じ匂いがするって」
「それ、って」
心臓が誇張ではなく跳ねたような気がした。口からは堅い声が零れ落ちる。
「うん。たぶん、榛名ちゃんの想像通り。運命のつがいってやつなんじゃないかって噂があるはある、かな」
逢えば一目で分かるとされる、アルファとオメガの間に存在する絆。行人は今まで一度も関知したことはない。無論、成瀬に対しても。
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