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パーフェクト・ワールド・ハルⅥ-6
「もしそうだったら、ちょっとショックだなぁとか言ってたんだけど。なんと言うか、会長レベルのアルファじゃないと、ハルちゃんみたいなオメガの可愛い子とつがいになれないのかな、とか。――大丈夫? 榛名ちゃん」
目の前で手を振られて、やっと行人は我に返った。
「顔色悪いけど。そんなにショックだった?」
あの人のつがいになりたいとまで、願っていないつもりだった。あの人のつがいは幸せだろうな、とは思っていたけれど。けれど、それは、行人にとってまだ先の未来のはずで。そこまで考えて、あぁ、そうか、と得心した。いきなり現実が迫ってきそうで、心が落ち着いていない。つまるところ、全然、そんな風に思えていなかったのだ。
「いや、……」
大丈夫、と言い掛けた応えを遮って、また四谷の声が飛んできた。
「なんでショック受けるの?」
座ったまま、四谷が不思議そうに首を傾げる。
「榛名はベータじゃなかったっけ。それともあの噂、本当だった、――とか?」
めき、と手の中で完全にカップが潰れた。嫌味だ。ただの挑発だ。品はないとは思うが。同じ土俵に立ったら負けだ。眉間に皺を刻んだまま、言い聞かせているうちに、ささっと荻原が四谷との対角線上に身体を滑り込ませた。
「だーかーら、仲良くとまでは言わなくても、喧嘩吹っ掛けるのは止めなってば。よっちゃんだって、そんなこと言われたら嫌でしょ」
「だって、違うんだったらそう言えば良いだけの話じゃん。その方がお互いすっきりするんじゃない」
「だからって……」
「高藤がいなかったら荻原に庇ってもらえて、良い身分だよね、榛名は。役職持ちに取り入るの、昔から上手いもんね?」
自分の堪忍袋の緒が長いなどと、思ったことは行人にはない。ただ、面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだから、これでも少しは成長して、我慢を覚えただけだ。中等部のころの自分が、高藤に言われるまでもなく問題児だったことも認識している。けれど。
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