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パーフェクト・ワールド・ハルⅥ-7
「誰がオメガだって?」
自覚しているよりも、ドスの効いた声になったのかもしれない。荻原を押しのけた先で、四谷が瞳を瞬かせる。
「はっきりと言ったつもりはなかったんだけど?」
「口にしてようがしていまいが、同じだろうが。さっきから嫌味なことばっかり言いやがって」
「榛名ちゃん、榛名ちゃん」
「おまえだって言ってただろ。喧嘩吹っ掛けたのは俺じゃない。あいつだ」
言い過ぎ、と言わんばかりに二の腕を小さく叩いた荻原に、勢いそのまま噛みつく。困った顔で行人を見降ろしていた荻原の視線が、不意に動いた。
「こら、一年」
外から戻ってきたところだったのか、ひょいと顔をのぞかせた茅野に、食堂に気まずい沈黙が落ちる。注意と言うよりは軽い調子で茅野が口を開いた。
「寮内で揉めるなよ。と言っても、寮の外でも揉めるなよ。風紀に見つかったら、痛い目見るぞ」
すみません、と次々に頭を下げた面々を見渡していた茅野の視線が行人で止まる。
「なんだ、なんだ。榛名。そんな子鬼みたいな顔して。そんな不機嫌そうにしてるくらいなら、少し早いが俺の仕事を手伝え」
「え?」
「そのカップ、俺に投げつけてくれるなよ」
言うなり、付いてくるのが当然とばかりに歩き出した茅野の背を、荻原に押される形で行人は追いかけた。ごみ箱にくちゃくちゃになったそれを投げ入れてから。
「あの、茅野さん」
二階と三階の踊り場の辺りでようやく追いついて、躊躇いがちに行人は声をかけた。
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