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パーフェクト・ワールド・ハルⅥ-9
「あの、茅野さん」
「まぁ、座れ。今、準備するから」
空いているスペースに言われるがまま腰かけると、茅野がノートパソコンを箱から取り出した。設置しているのをなんとはなしに見守っていると、茅野が不意に呟いた。
「気にした方が負けだぞ、榛名。噂と言うものは」
「え……」
「嘘だろうが本当だろうが、俺はそんなもの知らないと言う顔で笑っていろ。それが一番良い回避策だ」
何でもないことのように口にして、茅野が笑う。
「おまえの大好きな会長様にも、目立つからこそ、いろんな噂があるぞ。あいつは全く気にしてはいないが」
カタカタと茅野がキーボードを操作する音が響く。
「気にしていないと言えば語弊はあるかも知らんが、気にしていないそぶりしか見せん。肯定も否定もしやしないがな、あの頑固者は」
俺も、そうであるべきなのだろうな、とは思った。けれど、まだ行人にはそれは難しい。気にしないでおこうといくら言い聞かせたところで、態度に出ているに違いなくて。
――二年後、俺はそんな風になれているのだろうか。成瀬さんや、茅野さんみたいに。
おおらかで、優しい。年下の自分を自然と気遣ってくれるような、大人に。
「お。よし、出来たぞ、榛名。待たせたな」
茅野が画面を回転させた。行人の前にずらりと写真が並ぶ。
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