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パーフェクト・ワールド・ハルΦ-7

「モテるなぁ、行人は」   途切れ途切れに聞こえてきた会話が終焉を迎えたのを確認して、階段の手摺から背を離す。 「ちょっと、祥くん」  珍しく険のある幼馴染みの声に、視線を僅かに落とす。と言っても、昔と違い、その差もほとんどないけれど。 「いくらなんでも、他に誰もいない寮で、あいつ一人に行かせないでよ」 「心配性だな、皓太は」 「心配……と言うか、祥くんだって、心配だから、こうして残っていたんじゃないの」  もう子どもじゃないんだから、いつまでも子ども扱いしないでよ。口に出してばかりでもなく態度で言われることもあるが、なかなか正せない。幼い子どもだと思っているわけではない。能力的にもしっかりとしているし、性格的にも年よりずっと落ち着いている。ただ。変わらず残っている真っ当さが微笑ましくて、構い過ぎてしまう。 「荻原は、皓太がそんな心配をしなければならない相手なのか?」 「……では、ないけど」  上階から意識を外すようにして零された嘆息は、それでもどこか不本意そうだ。 「だったら、問題ないだろ」 「榛名は、祥くんとは違うよ」  こちらを言い含めると言うよりかは、自分自身に言い聞かせている風に、皓太が口を開いた。 「祥くんみたいに、なんでも上手く交わせるわけでもないし、――しっかりしているとか、そう言うこととは別問題で、強いわけでもない」  その「強い」が強かさと言うことであれば、そうかもしれない。自嘲の代わりに笑う。いつもの笑みで。 「強いと思うよ、行人は十分」  だから、そのままでいて欲しいと思う。自分と異なり、在るべきところに足を着いて、悩みながらも前を向いて自分の道を歩む。それは、自分が選び取らなかった、もう一つだ。後悔ではない、とは思っているのだけれど。

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