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パーフェクト・ワールド・ハルΦ-8

 櫻寮が創設された当時に植えられたと言う、桜の大木。その樹を囲むような小さな空間が、寮の中庭だ。中心部では柏木と二年生たちが花火に火を点けている。常日ごろ物静かな印象の強い柏木の横顔にも笑みが浮かんでいて、たまにはこう言った行事も良いものなのだろうなと再認する。  ――しかし、変われば変わるものだな。こいつも昔は、ちょうど今の榛名みたいだったが。  沸いた感慨は、けれど、それも当たり前かもしれないとの思考で蓋をされる。初めて逢ったころから、六年になる。その年月の中で、成長を伴い変化していくことは、至極自然だ。先だって榛名に言ってみたことも同じで、学生生活はあっと言う間に過ぎ去っていく。  とは言え、無論、例外もあるが。中庭にようやく姿を現した例外が、ふらりと近づいてきた。 「高藤だけか?」  出入り口に一人残されている後輩にちらりと視線を送って、成瀬に向き直る。にこりと微笑むその顔も、変わらないと言えば、変わらない。けれど、一番変わらないのはそこではない。 「行人も荻原もすぐ来ると思うけど」 「そうか」 「大丈夫そうか」 「うん」 「なら良い」  こちらのすべてを察した返事に小さく息を吐いて、ドアに視線を向ける。新たに降りてきた二人を含め、三人で話を交わしている下級生の姿を微笑ましいように成瀬が追っている。  ――変わっていない、わけでもないのだがな。  昔から妙に大人びていて、どこか底の知れない人種だった。初めて逢ったとき、これがアルファの上位種様と言うものか、と。そんな敗北感にも似た感情を持ったことを覚えている。一見、正反対のように見える向原と馬が合うのは、根本が似通っているからだと、茅野は思っているのだが。

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