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パーフェクト・ワールド・ハルΦ-10

 肌に触れる夜風は、まだ冷たい。蒸し暑いと感じるようになれば、卒業までもあっと言う間なのかもしれない。 ――どちらにしても、あと、一年か。 「向原さん」  近づいてくる砂利を踏む足音に視線を持ち上げた。高藤皓太。この学園に入学する前から向原のことを知っているからか、自分に対して必要以上に物怖じしない変わり者で、成瀬の可愛がっている子どもだ。 「向原さん、こう言うのに姿現さないって思ってた」 「あいつらが煩いからな、顔だけ」 「それだって、どうとだって出来るじゃないですか。その気があれば」  ある意味で、それは正しい。否定も肯定もせず、成瀬の方を見やる。輪の中で笑っている姿に、嫉妬すると言うよりは、ほっとする。この空間でなら、ある程度は肩の力を抜いていると分かるから。 「ところで、また機嫌悪いんですか?」 「篠原か」  どこか笑いを含んだ言い様に、向原も小さく笑った。 「まさか。そんな面倒なこと続けるわけねぇだろ。まぁ、――多少は気にするかとも思ったが、あの通りだしな」 「……でしょうね」  諦めを含んだ応えに、なんとはなしに向原は言葉を継いだ。

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