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パーフェクト・ワールド・ハルΦ-11

「面倒なことになるから止めとけば良いのに、と思ったのも事実だけどな。あいつ、言うこと聞かねぇから」 「仕方ないと思うしかないですもんね」 「あいつの、母親」 「え?」 「絶対、良い顏しねぇぞ。知ったら」  また電話なりなんなりで猛抗議を受けて、頭を抱えるだろう未来は簡単に予見できるのに。アルファであれ。有能なアルファであれ。アルファの中でも飛びぬけた一握りであれ。あいつにその呪いをかけた張本人。 「上手く立ち回れるつもりなんでしょう、本人は」  その家庭環境を、――根本的なところは知らないだろうが――、知っている察しの良い子どもは、困ったように息を吐いた。 「本人は、な」  答えを求めていたわけでもなかったが、子どもは何も言わない。つまり、そう言うことだ。  二つの輪が出来上がっている中庭はいかにも長閑な風情だった。手持ち花火の煙と、火薬の匂い。  ――箱庭の、楽園。  そんなことを言っていたのは、まだ中等部に在籍していたころの成瀬だ。

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