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パーフェクト・ワールド・ハルⅦ-1

[7]  ゴールデンウィークが明けると同時に、陵学園は、みささぎ祭一色となった。体育の授業はミニ運動会の練習へと割り当てられ、通常授業も午前中までとなり、以降はみささぎ祭の準備に充てられている。  賑やかな空気が得意ではない行人からすれば、苦痛な時間であったはずなのだけれど。運営側に回った今は、そんなことを言っている暇もないと言うのが正直なところだ。  ――こんなことで、思い知るとは思わなかったけどなぁ。  何って、役職持ちの忙しさを、である。身近で見ていたつもりだが、実際に自分がなってみれば、想像以上だったと言わざるを得ない。あるいは、成瀬や高藤であれば、違うのかもしれないが。  ちらりと視線を送った先で、件の同室者が疲れた雰囲気を覆い隠しもせず、書類を眺めている。  覆い隠していないのは、自分と二人きりの空間だからと捉えるべきか、いつもの余裕がないくらいには切羽詰まっていると見るべきか。  声を掛けようかと思ったタイミングで、会議室のドアが勢い良く開いた。 「榛名ちゃーん。ちょっと看板のヘルプお願いしても良い? 一人でも多く人手が欲しいみたい」  相変わらずの愛想の良さで飛び込んできた荻原は、行人の返事の前に奥にもう一声かける。 「良いよね、高藤」 「ん、……あぁ、大丈夫」 「俺も一緒に行ってくるね、最初だけ」  なんだ、その覇気のない返事、と思ったものの、手招きされるままに行人は会議室を後にした。 「なんか、あいつ大丈夫か?」 「榛名ちゃんがそれを口にするってことは、相当キてるかもだねー。まぁ、あと数日だし、保つでしょ、なんとか」  本番まで保たない、と言う同室者の姿は想像できないので、そう言う意味では大丈夫だろうと行人も思っている。やるべき仕事はやるだろうと知っている。ただ、なんとなく、それだけではないようにも思えるのだ。何がどうとは、言えないのだが。

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