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パーフェクト・ワールド・ハルⅦ-2

「よっちゃーん、助っ人連れてきたよ」  夕暮れに差し掛かり始めた寮の前庭に、八畳ほどの大きさの模造紙が広がっている。櫻をモチーフにした和柄の看板。五、六人の寮生が筆を片手に作業をしているところだった。荻原の声に、模造紙の外で全体を指示していた四谷が振り返る。 「ありがと。今頃になってから、運動会の小道具の方でもっと人が要るとか言われてさぁ。俺の立てていた予定が台無しになっちゃったんだよね」 「二年生は結構、クラブの方でも忙しいみたいだから、一年生の手も必要になっちゃったんだろうねぇ。大丈夫。その代わり、寮生委員会から榛名ちゃん貸し出すから」 「榛名って、器用だっけ?」  嫌味ではなく事実確認だと言い聞かせて、行人は正直に申告した。 「……慎重に、する」  器用ではない。間違いなく。絵心もない。だが、足元に広がる九割近く完成している美麗な看板を台無しにして良いわけもない。 「うん。そうして。変なアイデアとか創意工夫は、ここまで来たら求めてないから。俺の指示通り、作業していってくれたらそれで十分」 「はは、まぁ、これの下絵も配色も全部、よっちゃんが考えて描いたんだもんねぇ」  取り成す声に、行人は思わず四谷を見た。

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