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パーフェクト・ワールド・ハルⅦ-4

「そろそろ、一回、終わろうか。暗くなるし」  模造紙に落ちる自分の影と、夕闇とが混じり合う頃になって、四谷の声が頭上から響いた。その声に、行人は切りの良いところまで塗り切って、筆を模造紙から離した。  ちらほらと上がる和やかな声をよそに、行人は肩からゆっくり力を抜いた。変な力の入れ方をしていたのだろう。いつもと違う凝りを感じる。 「俺、もうちょっとだけ手直しするから、先に帰ってて」 「え……?」 「なに。榛名も上がって良いよ。と言うか、委員会の方の仕事もあるんじゃないの」  持ち場をそのままに散会していく背を、どうして良いのか分からないまま見送っていると、面倒臭そうに四谷が手を振った。 「と言うか、俺がそのまま戻って良いって行ったの。結構前に。勿論、残って片付けるよって言ってはくれたけど。逆に迷惑だから」 「なんで?」 「俺の勝手だから。気になるんだよ、細かいところが。でも、そんなこと一々言っていたら、進まないでしょ? 俺が言って直してもらったところで、またイメージと違ったら意味ないし、お互いストレス溜まるし。だから、俺が片付けがてらチェックしたいの。それだけ」

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