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パーフェクト・ワールド・ハルⅦ-12
「それに、委員長も怖いだけじゃなくて、格好良いしさ。あれで、案外、身内には優しかったりもするんだって」
身内に優しい、本尾先輩。宮森の言葉を脳内で繰り返してみたものの、行人は結局、想像を放棄した。無理だ。そりゃ、俺がまかり間違っても身内じゃないから、出来ないだけで、実際はもしかしたら「そう」なのかもしれないけれど。あの成瀬をして、やりづらそうなのだ。その事実だけで行人には十分だった。
――高藤に言われなくても、向原さんは怖いだけじゃないって言うのは、分かるは分かるんだけど。
ただちょっと、嫉妬心が勝るだけで。
「あ」
華やかな声と、鼻先を掠めた甘い香り。それだけで、誰が近くにいるのかすぐに分かった。水城春弥。もはや誇張ではなく、行人たちの学年の「お姫様」だ。
「ハルちゃん!」
同期生の弾んだ呼びかけに、取り巻きを連れた水城の足が応援席の前で止まる。相変わらずの美少女のような笑みに、周囲の視線が一瞬で彼に集まる様は圧巻で。
「本番もがんばってね、ハルちゃん。明後日のステージ楽しみにしてる」
「矢中くん、櫻寮なのに、そんなこと言っていいの? でも、ありがとう」
揶揄う調子のそれに笑いが起こって、けれどその波には行人は乗れなかった。苦手だ、と言う意識は取れるどころか、近づくたびに増していく。同じ性だと言う、同族嫌悪の一種なのかもしれないと思いながら。視線を逸らし掛けた行人を、まるで見咎めるように水城がにこりと微笑んだ。
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