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パーフェクト・ワールド・エンド13-4
――薬を飲まないで済む一番簡単で有効な手段はなにか知っているよね。
知っているに決まっている。だからこそ、選ぶつもりはない。そう成瀬が決めていることも知っているくせに、彼は暇を見つけては繰り返した。
――つがいをつくればいいんだ。
黙ったままの成瀬に気を悪くするでもなく、あっさりと彼は言い放った。
――それが自然な姿だよ。つがいをつくれば、必要以上に発情期に惑わされることはない。その期間は、きみを大切にしてくれるつがいが面倒を見てくれる。それだけだ。不特定多数のアルファにおびえる必要はなくなるんだ。
そんなこと、と成瀬は笑った。
自分は、おびえて暮らすことなんてしない。アルファになんて負けるはずがない。
このときの自分は、たぶん本心でそう思っていた。まだ知らなかったのだ。自分よりもずっと優れた本物のアルファの存在を。
そんな人間がいることを、陵に入るまで成瀬は知らなかった。あの男に会うまでは。
挑発するように言い切った成瀬に、彼は仕方ないと言わんばかりに微笑んだ。
――そうだね。今はまだ理解できなくてもいい。ただ頭の片隅にそういう可能性もあるのだと言うことを覚えていてほしい。主治医としてきみに伝えたいことのひとつだと思っていてくれたらいい。
さすがにそれ以上の反論を控えた成瀬に、彼はとどめのように言ったのだ。
――きみがそのまま「アルファ」でいたいのなら、恋をしてはいけないよ。
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