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パーフェクト・ワールド・エンド14-1
[14]
「え、なん……おば、じゃない。璃子さん」
「ひさしぶりね。皓太くん。元気そうでなによりだわ。お母様とお父様はお変わりないかしら」
「あ、はい。お気遣いどうも。あの」
「うちの子と違って、ちゃんと連絡を取り合っているのね。えらいわ。さすがよ」
久しぶりに会ったが変わらないと皓太は後じさりたくなった。この、まったくもって人の話を聞かない女王様然とした雰囲気。きれいな人だとは思うが、昔から皓太はこの人がなんとはなしに苦手だった。世間一般的に言うところの大女優だから気後れしているというだけではなく。「幼馴染みのお母さん」と言う風に見れた試しもないけれど。つまり、それだけ遠い人種なのだ。皓太にとって。
「それで」
にっこりとほほえむ顔は、幼馴染みとたしかに似てはいるのだが、根本的なところでまったく似ていない。
「その、連絡をちっとも寄こさないうちの息子はどこにいるのかしら」
というか、なんで陵の内部に、しかも櫻寮のなかにいるんだ。この人が。
金曜の夜だ。理由は知らないが、「今日は残らなくていいよ、俺も残らないから」と成瀬が言ったことにより、久しぶりに生徒会の雑務から解放された。もうずっと積みっぱなしになっていた本でも読んで精神状態を休めようかと思えていたのも長い時間じゃなかった。残念なことに。
二十時近くなってなぜか階下が騒がしくなったのだ。「なんかうるさくね?」と今にも出て行きそうな榛名を溜息ひとつで押し止めて、寮室を出たのが数分前のこと。
そのときの皓太の脳裏にあった最悪は「ハルちゃんが来た」だったのだが、ある意味ではそれよりも恐ろしい人間が悠々と一階の談話室のソファに腰かけていたのだ。
遠巻きに何人もの寮生が見ているが、茅野や柏木の姿はまだない。
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