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パーフェクト・ワールド・エンド14-2

「呼んできますね」  そういえば、今日は寮のなかではまだあの姿を見ていないと思ったが、部屋には間違いなくいるだろう。踵を返そうとした瞬間、近づいてきた誰かの胸板にぶつかりそうになってたたらを踏む。茅野だった。  呼びかけようとした皓太を視線で遮って、成瀬の母親に声をかける。 「あの、失礼ですが」 「何度か会ったことがあったかしら。ごめんなさい、なかなか顔を覚えられなくて」 「いえ、直接こうしてお会いしたことはないと思います。成瀬の同級で、ここの寮長の茅野と申します」 「あら。じゃあきっとうちの子がお世話かけてるわね」 「こちらこそお世話になっていて」  にこやかに笑って、茅野が告げる。 「それで、成瀬ですが。今日は家の用事と言うことで外出届を出していましたが」  成瀬の母親に、ではなくこの場にいる誰かに伝えるようにも響く調子だった。 「あら、いやだ。うっかりしていたわ。きっと私じゃなくて夫のほうね。呼び出したのは」 「そうですか」 「ふふ、こうして子どもに会いたいと思うタイミングは案外と似通うものなのかしら。夫婦だから当たり前かもしれないけれど」  完璧な微笑みを向けられて、皓太は愛想笑いで頷いた。それが精いっぱいだ。絶対、そんなわけないだろ、と思ったが言えるわけがない。茅野は茅野でそうですねと人当たり良く笑っている。余計なことを言うなするなと言わんばかりに肩に置かれた手からやけにいやな握力を感じるかれど。  ――家の用事って、なんだよ。っていうか、絶対、おばさんこれ、祥くんがいないの分かってて、やってきただろ。  その思惑なんて分かるわけもない。茅野のおかげで立ち去ることもできないまま、状況を注視していると、彼女が長い足を組みなおした。まだまだ居残るという無言の主張に、ちらりと茅野の横顔を窺う。遠巻きにしている人数は減るどころか増えるばかりだ。

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