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パーフェクト・ワールド・エンド14-3
「ごめんなさいね。つい先日まで撮影でイギリスに行っていたのよ。それで家にはまだ戻れていなくて」
「あぁ、そうなんですね。なんの撮影ですか。またあなたのきれいな姿を映像で見れると思うと楽しみです」
「ありがとう。うちの息子はそんなことちっとも言ってくれないから、お世辞でもうれしいわ。来年公開予定の映画なの。よければ見に来てやってね。そのころはあなたもここにはいないでしょうけど」
それで、と彼女の唇がにこりと笑みをかたどる。
「その帰りに、たまには顔を見に来ようかと思ってね。こうでもしないと、あの子うちになかなか戻ってこないから。それに戻ってきても、私と入れ違いになることも多いのよ」
「あぁ、なるほど」
「それで、その話を陵さんにしたら、特別に配慮してくださって。お邪魔させて頂いたというわけなの」
そんなつもりで言ったわけじゃなかったのだけど、と続いたそれに皓太は内心でだけ「そんなわけないだろ」と突っ込んだ。口に出せるわけはない。基本的に自分の意のままに動かない男はいないと信じているし、実際にそのとおりなのだから性質が悪い。
けれど、これで基本的に保護者と言えど外部からは入ることのできないところにこの人が堂々といる理由は分かった。
「でも無駄足になっちゃったわね」
残念そうにほほえんでから、遠巻きにしている寮生たちを順繰りに見つめる。最後に茅野と皓太のところで視線が止まった。
「ここまで来たついでに少し聞きたいのだけれど。あの子はちゃんとやっているのかしら」
「ちゃんと、とは」
「過保護な母親でごめんなさいね。離れているものだから」
心配になっちゃうのよ、と母親らしい声で彼女が続ける。なにをどこまで関知しているのかは知らないが、時と場合が悪すぎる。
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