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パーフェクト・ワールド・エンド14-4
――まぁ、でも、茅野さんなら問題ないか。
来てくれてよかった。どうとでもうまく取り繕ってくれるに違いない。茅野任せで状況に身を委ねていると、今度は背後がにわかに騒めいた。
「あら」
げっと思わず出そうになった声は、嬉しそうな呼びかけに打ち消された。
「鼎くん」
いつもどれだけ騒がしかろうが、興味なんて示さないくせに。寮生たちの視線をものともせず、まっすぐに向原が近づいてくる。
「会うのはひさしぶりね」
たまにはお友達を連れてきなさいと私がいくら言っても、ちっとも聞いてくれないのよ、とほほえんだ彼女に、そうですねと向原が応じる。その横顔は静かだった。
「そうだった。あなたに会ったら言おうと思っていたことがあったの」
「なんですか」
「うちの子、もらってやってくれないかしら」
その瞬間、近くにいた人間の空気が止まった。ただひとり、変わらなかったのは言われた当人だった。
「そういうことばかり言っていると、また祥平に怒られますよ」
「そうなの。あの子ったら、冗談がまったく通じなくて」
怒られてばかりなのよと艶を含んだ顔で微笑む。ぎこちなく流れ始めた場の空気に、皓太はほっと胸をなでおろした。ただの冗談だと思いたいのに、思えなかった。
「車はどちらですか」
「ここの前で待たせてるわ」
「じゃあ、そこまでお送りしますよ。あいつを待っていたら、あなたの帰りが遅くなる」
「優しいのね」
「あなたは、祥平の母親ですから」
皓太からすれば似非臭いとしか思えない優しげな声音だったが、彼女は満更でもない顔で微笑んで立ち上がる。
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