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パーフェクト・ワールド・エンド14-10
「水城は榛名と違って、そんな心配はしてないと思うよ」
「……え?」
「自分を食わせて、すべてのアルファを意のままに操りたいと思っているし、それができると思っているんだと思うよ」
すごい自信だなと思う。本当にそう思う。けれど、水城とその周辺を見ていると、成功してしまっているのではないかと思うことがある。
「ある意味では、オメガによる復讐のつもりなのかもしれない」
見せかけだけのアルファの支配を、陰から操作して笑うオメガ。その図は、想像に易かった。
「まぁ、ただの想像だけど」
「そんなの」
そのあとに続いた言葉は「信じられない」だったのか、それともなんだったのか。口中で呟かれたそれは皓太の耳には届かなかった。しばらくの沈黙のあと、榛名が顔を上げた。意志の強い瞳に、なぜか不安そうな色が混ざっていた。榛名、と呼びかけるより先に、食い気味に問いかけられる。
「おまえは違うよな?」
「え? 違うって、なにが」
「おまえは、あいつに乗せられたりしないよな」
なにを言ってるんだと腹が立ったのは一瞬だった。安心させてやりたいと思う感情が勝る。
「あいにく。俺は生徒会の人間だから。誘われたことは一度もないよ」
「そう……だよな」
バツが悪そうに、榛名が頷いた。力の抜けた顔に、皓太も少しだけほっとする。
――ただ。
ここから先は、言うつもりのないことだ。榛名も知っているかもしれないが。
ただ、と皓太は溜息を吐きたくなった。
自分は生徒会の人間だから、声をかけられない。事実だ。けれど、そうではない目立つアルファにはここぞと声がかけられている。
秘密の薔薇結社に出入りするアルファはアルファのなかでも選ばれた特別なアルファ。
なんでそんな箔が付いたのか。その理由もまた皓太はよくよく知っていた。
アルファのなかでもとびきり優秀だと誰からも評されていたアルファ。この学園の双頭のひとり。向原が、そこに出入りしているからだった。
――面倒なことになっていないといいけど。
ちらりとカーテン越しに窓の外に視線を向ける。見えるわけがない。あのふたりのことが、見えたためしなんて、今までも一度もなかったのだ。
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