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パーフェクト・ワールド・エンド15-1
[15]
「私は、オメガが大嫌い」
静かな夜のなかに、ゆったりとヒール音が響いていた。基本的に男子生徒しかいないこの学園ではひどく異質な音だ。けれど、その拒絶をものともせず彼女は世界の中心に立っている。嫣然とした笑みを浮かべて。
いかにも、あいつの母親らしい。傲慢で、自分だけが信じる価値観のなかで生きている、それでいて大多数に選ばれる人の上に立つ人間。
「なぜだか分かる?」
かつん、と小さな音を立てて足音が止まる。目と鼻の先に門扉の見える場所だ。振り向いた顔は、よく知る男に似ているようでまったく似ていなかった。
「優等なアルファを捕まえて幸せにしてもらうことはできても、自分の力で幸せになることはできないからよ」
どこかで何度も聞いたような台詞だった。
「他者に依存しなければ生きていけないか弱い生物は、私は大嫌い」
「そうなんでしょうね」
「それでもね、一応、自分の産んだ子どもに対しての愛情と責任は持っているつもりよ。だから、私の思う最善を授けたの」
「願う、ではなくてですか」
「似たようなものよ。それに、私が押し付けたわけじゃないわ。あの子が選んで実践してきた道よ」
だろうな、と思った。少なくともあの男はそう信じている。
「今でも覚えてるわ。私、心底ほっとしたの。なんでどうしてってそればかりだった私に、あの子が言ってくれたとき」
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