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パーフェクト・ワールド・エンド15-2

 そう微笑んだ顔は、幸福そうだった。女優の顔。この国に住む人間のほとんどが顔と名前を一致させているだろう、大女優。あいつも似たような顔をつくってみせることはあるが、表情のつくりこみ方の年季が違う。  あるいは、ここまで割り切って生きていれば、もっと生きやすかったのかもしれない。 「アルファになる。誰にも負けない、強いアルファにって。そう言ってくれたの」 「それを実践できる器でよかったですね」 「そうね。私の血だわ」  あっさりと首肯して、続ける。 「でも、いつか無理がくることは分かってた」  その寂し気な微笑を静かに見つめ返してから、向原は言った。 「それで? 新しい筋書きでも見つかりましたか」  こういった人間が、ただの気まぐれで、こんなところにわざわざ足を運ぶはずがない。そのことを、向原はよく知っている。  ふっと笑みを深めた顔から寂しい印象が抜け落ちる。「どうかしら」と言葉遊びを楽しむような返答は、どこか水城にも似ていた。気が付いているのかどうかは知らない。けれど、成瀬があの新入生を毛嫌いしている理由のひとつはこれだろうと向原は思っている。自分がすべてを掌握できると思っている傲慢さ。

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