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パーフェクト・ワールド・ハルⅦ-16
「あれ、高藤。大丈夫だった? すごい勢いで戻って行ってたけど。……ん?」
前方から現れた荻原が、行人の手元を見て、訝しげに首を傾げた。その反応に、まるで自分たちが手を繋いでいるような状態だったことを思い出す。離そうとした行人を他所に、高藤は至っていつも通りの声で応じた。
「荻原、応援席の方にもう戻れるんだよな? 悪いけど、頼むわ。べつにどうと言うほどではないんだけど。榛名が今度は水城に暴言吐いて」
まだ水城たちの姿の残る櫻寮の応援席を示した高藤に、荻原が困惑を隠さない顔で笑った。
「え……、うーん、分かった。道理で、ハルちゃんと言うか、ハルちゃんの取り巻きの視線が怖いわけだ」
「面倒なこと頼んで悪い」
「いや、まぁ、……べつに良いけど。お二人は? 委員の仕事で抜けるんですって感じで良かった?」
慣れた様子で請け負った荻原に、「悪い」ともう一度口にして、高藤が歩き出す。引っ張られる形で足を踏み出したところで、追い抜きざま、荻原が小さく手を振った。怒られておいで、とでも言うように。
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