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パーフェクト・ワールド・ハルⅦ-17

 結局、高藤の足が止まったのは、人気のない校舎の方に着いてから、だった。手は離れたけれど、高藤は振り向かない。何も言わない。普段なら気にならないはずのそれに耐えかねて、行人は口を開いた。 「あんな愛想良く振舞えたんだ」 「そりゃ、昔から、鉄板の猫かぶりを近くで見てるもので。……と言うか、おまえこそ、ちゃんと後で四谷に礼言っとけよ。やっと、寮に馴染もうって気も出てきたのかって、俺としては安心してたんだけど」  そこまで言って、高藤が振り向いた。口調は淡々としていたが、どこか苛立った風に息を吐く。 「ちょっとは丸くなったかと思ったけど、やっぱ変わってないね、おまえ。全然」  変わって、ない。吐き捨てられても仕方がないことだった。なのに。 「場所くらい弁えろよ、いい加減。しかも、一応、おまえ、今、寮生委員会の所属になってんだしさ。茅野さんとか、櫻寮にかかるだろう迷惑も考えて発言しろって」  俺は、おまえとはどうせ違う、だとか。おまえに言われなくても分かっている、だとか。いつもなら言い返しただろう台詞が出てこなくて、行人は結局、躊躇いがちに言葉を継いだ。 「悪い。その、迷惑かけて」  収束を図ってくれたのは高藤で、それだけは間違いがない。良いよな、おまえは、アルファだから。オメガじゃないから。卑屈な言い訳が浮かんでは消えていく。なぜか、以前よりもずっと、そんなことを思う瞬間が増えたような気がする。それのすべてを水城の所為だとは、さすがに思わないけれど。でも。

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