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パーフェクト・ワールド・ハルⅦ-18
「あー……、嘘、悪い。悪かった」
視線の先で、高藤が僅かに目を逸らした。
「嘘ではないけど。いや、でも、……気付いてると思うけど、俺も最近苛々してたから、言い過ぎた。変わってるよ、おまえは良いように、ちゃんと。最近、大人しかったもんな。だから、ちょっと久しぶりで、俺もびっくりしたと言うか」
実は久しぶりではなく、少し前に寮内でもやらかしている。荻原が高藤に黙っておいてくれたのかもしれないが。苛立ちを苦笑に変えて、高藤が続けた。
「これは、俺の……その、何て言うかな。俺が、勝手に感じてることだから、絶対ってわけでもないし、強制するようなものでもないんだけど」
まどろっこしいその前置きが、いかにもらしいと思った。高藤は、無理に押し付けない。強要しない。そして、それは、ある意味でアルファらしくない。
「あんまり関わるな。水城に。あまり良い気がしない」
だから、それは、意外だったかもしれない。この男が、特定の誰かを排除しようとしていることが。
「俺だって、必要があれば愛想くらい振る。嫌なことがあっても、揉め事にしたくなかったら、受け流す。誰だって、そうだ。だから」
言い淀むように言葉を切って、けれど、しっかりと行人を見た。
「前にも言ったけど、俺はおまえのそう言う不器用なところも、ある意味で素直なところも嫌いじゃない。でも、それと、これとは別問題だろ。めちゃくちゃ無理しろとは言わないけど、出来るんだったら、受け流し方を覚えた方が良い」
「……うん」
「目立つところで、あいつと揉めるな。かなりの確率で悪者になるのも、弾かれるのも、おまえになる」
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