444 / 1144
パーフェクト・ワールド・エンド16-5
言われなくても、わかっている。自分が今、あの人に会いに行く理由は一つもない。ただ、想像してしまっただけだ。
――もし、本当にあの人がアルファだったら。
腹は立っただろうけれど、馬鹿な噂だと一蹴できただろうし、あの人も歯牙にもかけなかったはずだ。
――でも、そうじゃない。
わかっている。そうであっても、あの人は、気にも留めない顔をしているだろうことを。
けれど、表面上はそうであったとしても、内面も同じであるとは限らない。なにを考えているかなんて行人にはわからないし、想像にも限界はある。
ただ。
――俺は、違うけど、でも、ある意味であの人と同じだから。
そう、だから、と思う。だから、高藤や向原に想像のつかないところを覗くことはできる。
あの夜、行人は自分のなかで抑えきれなかった不安を、同室者にぶつけた。最近のこの学園に蔓延る悪感情について、だ。
悪感情と言うと、語弊はあるかもしれない。行人は良いものだと思っていないが、水城を心棒する連中からすれば、「悪感情」などではなく「正しいもの」であるだろうと思うからだ。
行人が「秘密の薔薇結社」という同好会の存在を知ったのは、他のクラスのアルファの生徒に言われたからだった。
ともだちにシェアしよう!