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パーフェクト・ワールド・エンド16-12
行人に、というよりはひとりごとの調子で呟いてから、「じゃあ」と高藤が窓辺を離れた。
「あんまりふらふらしてないで、早く戻れよ」
昔だったらそのお節介に反発していただろうが、今となっては必要以上に腹は立たない。
言われたくはないとは思う。けれど同時に、しかたがないとも思うようになった。
人のいい同室者が純粋に心配してくれているのだと捉えることができるようになったということもひとつだ。
もうひとつは、心配せざるを得ない秘密を自分がさらけ出してしまったと理解しているからだった。
――俺がどうのこうの言う問題じゃ、本当にないんだろうけど。
そして訪ねたところで、気を使わせるだけだとも分かっているけれど。それでも会って確かめたいという気持ちは変わらなかった。
寮に戻ってから、会いに行こう。そう決めて、行人は自分の教室までを急いだ。
――つがいをつくるのも、幸せになる方法のひとつ、か。
幼いころから家族に言われてきたことでもあるし、成瀬にも言われたことだった。理屈では、理解している。
ただ、本能のようなもので、守られるだけの存在になりたくないとも思っている。
けれど、行人にそう勧めた彼らにあったのは、純粋に行人を思う心だけだったのだろうとも分かっている。
――でも。
その現場に直接いたわけではない。彼の家の事情を詳しく知っているわけでもない。その上で、「でも」と思ってしまう。
あの人の母親が向原に向かって言ったというそれは、絶対に行人の母がオメガの息子を心配して告げたものとは違う。
あの人が行人のために言いたくはないだろう言葉を口にしたときとも違う。
そう、思った。
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