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パーフェクト・ワールド・エンド17-5
なに、ともう一度静かに成瀬は促した。自慢ではないが、陵に来るまでは周囲と自分との差は圧倒的だった。陵に入ってからも、常に上にいた。
だから、こんなふうに言われることは、実は珍しいことだった。向原や篠原や、茅野。陵に入ったことで初めて得たような気がしていた、対等な関係。けれどそれも、自分が彼らと同じアルファであると言う前提のもとに成り立っているものだ。
「俺が今まで一度でも、おまえのことをオメガだからって言ったことがあったか?」
「……え?」
予想していなかった言葉に、素で反応が遅れた。気が付いているだろうに、構うことなく向原は淡々と続けた。真意の読めない静かな瞳は、けれど、いつも真摯だった。少なくとも、成瀬よりはずっと。
「アルファだからどうのって言ったことがあったか?」
なかっただろ、と向原は言った。少なくとも俺から言ったことは。
「そうかもな」
先ほどと同じ相槌を繰り返した。それ以外にどう言えばいいのか分からなかった。
「べつにどうでもいいんだよ、そんなこと」
どこか投げやりにさえ響く淡々としたそれは、本当にどうでもいいと思っているのだろうことを告げていた。
「おまえはそんなふうに思えないんだろうけど、どうだってよかったんだよ、本当に」
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