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パーフェクト・ワールド・エンド17-6

 成瀬の答えを待とうともしないまま、向原は立ち上がった。そしてそのまま背を向ける。 「まぁ、おまえはそうじゃないんだろうけどな」  最後に吐き捨てられた台詞を、反芻できたのはひとりになってからだった。 「そんなの、おまえだから言える台詞だろ」  堪え切れなった非難が、ひとりきりの空間に響く。苛立ちと焦燥と、そして得も言われぬ罪悪感。  持っている人間は羨まない。蔑まない。オメガでもアルファでもどうとでもいいと心の底から思えるのは、向原がアルファだからだ。  だから、自分とは相いれない。  絶対に、相いれることはない。何度目になるのか知れないことを、成瀬は言い聞かせた。  ――おまえが秘密を守ることができるあいだは、俺も秘密にしておいてやるよ。  そう、あの男が言ったのは、ただの気まぐれだったと成瀬は思っているし、おそらく実際にそうだっただろうと思う。  お互いに予想外があったとしたら、その気まぐれが、ここまで長く続いているということだけだ。  それも、もう終わるのだろうけれど。

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