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パーフェクト・ワールド・ハルⅧ-3

「茅野さんは、オメガでなくても男をそう言う意味で対象に出来ますか?」 「どうだろうな、分からん」  躊躇いの末、皓太が吐き出した問いかけを、長考することもなく答えてから、茅野がふと真顔になった。 「ところで、おまえのその顔の理由は、それだけか?」 「え?」 「随分、煮詰まった顔をしているぞ。このところ」  とん、と茅野が自身の眉頭のあたりを叩いた。煮詰まった顔。しているのだろうなと諦めて、皓太は吐き出した。あの榛名にまで似たようなことを言われたのだ。相当やられていることは、間違いない。 「俺は……語弊があるかもしれませんが、今のこの学園の空気が気持ち悪いんです。なんだか、落ち着かない」  茅野は何も言わなかった。時計の針の音がやけに響く気がする室内で、皓太は続けた。 「オメガだ、アルファだ。本来なら口にすべきではないと誰もが分かっていたはずのことが、当たり前のように口から出る。あいつはオメガかも知れない。あいつはアルファだ」  オメガだろうがアルファだろうが関係ない。この学園で生活していく上で。何の関係もないことだと思っていた。 「俺は、それがすごく嫌です」  いつのまにか溜まり込んでいた淀みが言葉になった瞬間、実感した。あぁ、嫌だったのだと。それが腑に落ちていなかったのだと。じっと黙って耳を傾けていた茅野が、おもむろに口を開いた。

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