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パーフェクト・ワールド・ハルⅧ-5
「おまえのその考え方は至って正しい。ただ、――真っ当過ぎるな」
「でも、少なくとも……中等部の時は、そうじゃなかった」
「倫理観が変わったと言うことかもしれないな、それならば」
宥める調子で茅野が語尾を和らげた。
「おまえたちはある意味で、洗脳世代でもあったから。その反動が、こうやって出ているのかもしれない」
「洗脳、世代?」
繰り返した皓太に、茅野が微かに目じりを下げた。首肯するように。
「おまえたちが中等部に入学して、……言うならば、初めてこの学園に接した時の、トップは誰だった? それで、おまえが所属していた寮には誰がいた?」
「――成瀬さん?」
「そう。あいつだ。あいつも、今は多少あれでも丸くなっているが、あのころは、もっとなんと言うか、強引なところもあってな。まぁ、幼かったと言うこともあるのだろうが、なんと言うか」
言いあぐねるようにしていた茅野が「そうだな」と頷いた。
「理想論者だった」
あぁ、と。得心した。確かに、彼はそうだった。そしてそれは、この学園に入学するより、ずっと以前から。皓太が物心ついたころから、二つ年上の幼馴染みはいつだって正しかった。正しいとあろうとする道を行っていた。
「この学園にいる間は第二の性も何も関係ない。みんな同じ屋根の下で生活する仲間です、だったかな。当たり障りのない言葉なんだが、あの顔で、あの声で、堂々と言われれば、このある意味で閉鎖的な学園は『そう』なのかと思うだろう」
茅野は笑ったが、皓太は笑えなかった。三年前。講堂で、初めて親元を離れたあの日、自分たち新入生のこの先を示すように立っていたのは、生徒会長だった。
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