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パーフェクト・ワールド・ハルⅧ-7
「オメガの番人」
もちろんオメガなんていないから、比喩だけどな、と。茅野が言う。噛み砕ききれていない情動を呑み込むと、次に頭に浮かんだのは同室者の顔だった。
「襲われそうな線の細いベータは、みんなあいつに纏わりついていた」
どこか懐かしそうに茅野が眼を細める。直接見た記憶はないが、その光景の想像は簡単に出来た。
「ついでに言えば、あのころは、今よりずっと荒れていたんだ、学園が。おまえたちの代でも襲われかけただなんだはあったとは思うが、俺たちが中等部に入学してすぐのころは本当にひどかった」
「そんなに……ですか?」
「あぁ。殴り合いだってザラで、制服の下は痣だらけなんてこともあったんだぞ。信じられないかも知れないが」
眼を瞬かせた皓太に、茅野は簡単に応じて見せる。それは皓太の知らない世界の話だ。
「それを時間をかけて宥めていったのが、成瀬であり、向原だ」
そうして出来上がったのが、俺が知っているここだとでも言うのだろうか。わだかまりを消化できないまま、皓太は曖昧に頷いた。生徒会に、そんなに力があると思ったことはない。だとすれば、あの人たちだから、なのだろう。
「まぁ、向原は……成瀬が求めていたから、その一端を担っただけ、かもしれないが。どちらにせよ、同じだな。影響力の強い人間が二人そろって、平和志向を促すんだ」
「そうなんでしょうね、きっと」
「おまけに、……おまえは知っているかもしれんが、向原だけじゃなく、あの顔で成瀬も腕っぷしが強いからな。性質が悪い」
苦笑いとしか言えない声で茅野が続ける。
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